1章

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 鈴木に手を引かれて歩く道は確かに楽だった。先ほどのように石を飛んで歩く必要もない。石の境目に来たら、手を傷めない程度に引っ張ってくれているからだ。  引っ張られながら歩いていると、いつの間にか線路の真ん中あたりまで来ていた。  ⋯⋯危うく、本題を忘れるところだった。 「鈴木」 「ん? 」 「ここの線路の名称は知ってる? 」 「知らない」  線路の存在すら知らなかった鈴木だ。そうだろうなと頷く。 「ここは蹴上インクラインっていうの」 「インクライン? 」 「インクラインっていうのは、傾斜がある道に線路を引いて、荷物や船を運搬するところっていう意味。ここは、船を主に運搬していたらしいよ」 「へぇ」 「ちなみにここは世界最長の傾斜鉄道」 「ここが? 」 「うん」 「それはすごいな……」  鈴木が驚いたように立ち止まって、線路のその先を見つめる。 「明治時代に作られて、今の今まで残ってる。インクラインとして使われてこそいないけどね。それってすごいことだと思わない? 」  笑い合いながら、写真を撮っている人たちを見る。 「多少の景色の違いはあれど、皆ここで生きた人はこれを見てきた……」  そして、インクラインもまた、その光景を見てきたのだろう。 「……そう見ると少し変わって見える気がする」 「それはよかった」
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