プロローグ

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結局、私は警察の事情聴取等で学校を休むことになり、翌朝学校へ向い、教室に入るといつもと明らかに教室の雰囲気が違った。  鈴木は入院ということで、学校には来ておらず、私が机にランドセルを置くなり、普段鈴木と一緒になって私をからかってくる男子が近づいてきた。  その男子を訝しげに見上げると、男子は親しげに肩を叩いてきた。 「鈴木、事故にあったんだって? 事故どんな感じだった? 」  事故について聞かれることは予想していた。私と一緒に登校している友達は別クラスだし、聞くとしたら私だろう。  しかし、てっきり鈴木の容態について聞かれると思っていた私は男子を2度見した。なお、男子は肩を叩き、質問を重ねてくる。  その質問を聞き流しながら、周りを見る。クラスの人気者の鈴木が事故にあった。それなのに、事故のことばかりを気にしている男子を周りは軽蔑の目で見ているのではないかと期待したのだ。  結果、期待は大いに外れた。皆、男子の言葉に、私の言葉を一言も聞き漏らすまいと、聞き耳を立てているのがわかった。その目には好奇心が見え隠れしている。  ――誰一人、鈴木のことを心配している人はいない  その事に衝撃を受けた。 「おい、斎藤どうだったんだよ。事故」  男子がしびれを切らしたのか、先程よりも大きな声で聞いてくる。  まずい。このままでは、怒らせてしまう。その頃、人を怒らせるということに何よりも恐怖を抱いていた私は、震える口を抑えるように口を開いた。 「……すごかったよ」 「へぇ」  男子が口角をゆっくりとあげた。 「どんな風に?」 「自転車がいきなり鈴木にぶつかって、人が倒れて……」 「それでそれで?」  男子は目をキラキラして、私を見る。周りにも話を聞こうとどんどん人が集まってきた。  皆が自分に期待している。  ――その時の私はあまりに愚かで、他人の心を理解していなくて、自分を心の底から良い人間だと盲目的に信じていた。だから、間違えてしまった。  私は調子に乗り、どんどん事故について話してしまったのだ。そのたびに皆は興味深そうに聞き、もっと話してくれと私にせがんだ。  一種の優越感だろうか? 普段、鈴木に目の敵にされているせいでクラスの人からも同じような扱いを受けていた。その人たちが今、自分に興味を持っている。  その時、私は確かに言ってはならないことを言い続けてしまったのだ。  
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