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鈴木が口を開く。次にどんな言葉が来るかそれが手に取るようにわかって、ギュっと目をつぶった。
「理系に変更したらどうだ? 」
あぁ、言われてしまった。
もう決めたのに。だって、理系に行ったら絶対に自分が苦労するから。
「⋯⋯歴史とか、経営にも興味あるから」
出した声は思ったよりもかすれていた。
後悔なんてしていない。これで良いのだ。自分にはほかに興味のあることがある。
「そっか⋯⋯」
鈴木が笑う。
「それなら、それが良いな」
そう言われて、自分の口の中に何か苦いものが広がった。
「お、風景が一気に変わってきたな」
横を見ると、寺の屋根が見える。
「今、ちょうど水路閣の上だね」
先程と違い、人がいる。少し、空気が軽くなった。
「そうなんだ」
「うん。そこの階段、ぬめってて危ないから気をつけてね」
「わかった」
包まれていた手の温もりが離れたことで、今の今まで手を繋ぎっぱなしだったことに気がついた。
鈴木はあっさりとスタスタ降り、その後私に向かって手を差し伸べる。
平然とそんな行動ができる鈴木を見て、だからモテてるのかと納得した。
「何か失礼な事考えてるだろ」
「え? 考えてないけど」
鈴木の手を掴み、階段をじっと見て降りる。
「ただ、鈴木がモテる理由に納得しただけで」
自分が掴んでいる手がピクっと動いた。
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