1章

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 鈴木が口を開く。次にどんな言葉が来るかそれが手に取るようにわかって、ギュっと目をつぶった。 「理系に変更したらどうだ? 」  あぁ、言われてしまった。  もう決めたのに。だって、理系に行ったら絶対に自分が苦労するから。 「⋯⋯歴史とか、経営にも興味あるから」  出した声は思ったよりもかすれていた。  後悔なんてしていない。これで良いのだ。自分にはほかに興味のあることがある。 「そっか⋯⋯」  鈴木が笑う。 「それなら、それが良いな」  そう言われて、自分の口の中に何か苦いものが広がった。 「お、風景が一気に変わってきたな」  横を見ると、寺の屋根が見える。 「今、ちょうど水路閣の上だね」  先程と違い、人がいる。少し、空気が軽くなった。 「そうなんだ」 「うん。そこの階段、ぬめってて危ないから気をつけてね」 「わかった」  包まれていた手の温もりが離れたことで、今の今まで手を繋ぎっぱなしだったことに気がついた。  鈴木はあっさりとスタスタ降り、その後私に向かって手を差し伸べる。  平然とそんな行動ができる鈴木を見て、だからモテてるのかと納得した。 「何か失礼な事考えてるだろ」 「え? 考えてないけど」  鈴木の手を掴み、階段をじっと見て降りる。 「ただ、鈴木がモテる理由に納得しただけで」  自分が掴んでいる手がピクっと動いた。
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