1章

27/42

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
 その顔を見ていると、強められたということ自体、私の勘違いなのではないかと思えてくる。  手を引かれたおかげで、無事こけることもなく裏につく。  裏からはさっきと同じように、真っ直ぐな1本の道とそれを囲う木々が見えた。唯一違う点は京都の街並みではなく、南禅寺本堂が見える点だ。 「こっちはこっちでいいな」 「そうだね……」  無言の空間をしばらく2人で過ごす。ぼーっと景色を眺めていると、人の声がしてきた。  振り向くと、徐々に人が増えてきているらしいことがわかる。話している言語から察するに、アジアの観光客のようだ。  どこの国の言葉だろうか?  考えていると、隣でぐーっと音がした。思わず隣を見上げると、鈴木は目を僅かに逸らしたあと、少しはにかむ。 「……お腹空かないか? 」  自分のお腹に手を当てる。すると、自分の贅肉がぷにっと手を押し返してきた。 「そうだね。空いたかも」  痩せないと。そう思う心とは反対に自然とお腹はすいてしまったようだ。 「だよな。降りるか」 「うん」  降りようと、階段の前に移動すると声をかけられる。……異国の言葉だ。  戸惑いつつ、話しかけた相手を見ると、スマホをこっちに出しながら大袈裟なジェスチャーをしている。  写真を撮ってほしいと英語で言っているのが理解出来た。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加