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1章
「斎藤!」
高校へ向かう電車の中、眠気でうとうとしていると、隣に誰か座った衝撃とともに名前を呼ばれた。
「……鈴木」
そこには、ここ何年か毎日のように見る顔がいる。
「……私に何か用事? 」
「用事? 用事なんてないに決まってるだろ」
鈴木は訝しげな顔をする。
「そう、そうだったね。ごめん、変な事言った」
昨日、昔の夢を見たからかこの光景に違和感を感じたのだ。私はこの立ち位置にいるべき人間ではないのに、なんでいるのだろうと。
……今更な疑問だ。
「いや、別にいいけど……。何かあったら言えよ?」
私の視界に、私の顔をのぞき込む鈴木の顔が映る。
あぁ、こんな光景を見ることになるなんて、想像していなかった。
ぐるぐる渦巻く想いに蓋をするように、口角をゆっくりあげた。
「……ありがとう」
元はと言えば、私をこんな性格にした一因は鈴木にあるんじゃないか。
そんな皮肉がつい口に出そうになる。
ダメだ。今日は本当におかしい。
手のひらを額につけ、気持ちを落ち着けるために下を向いて息を吐き出すと鈴木が焦っているような声を出す。
「大丈夫か? 本当に。体調悪いのか? 保健室行く? 」
本当に私を心配しているような鈴木の声色に、体の力が抜けた。
……そうだ。鈴木が私に過去何をしようと、今鈴木が自分を本当に心配している気持ちは本物だ。
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