1章

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「あぁ、えっとね、北に高くそびえる山、東に河川の流れ、西に大きな道路、南に平坦な地の広がりを備えた立地が最高であるとされているんだって」  覚えた文章をそのまま諳んじる。 「なるほどなー。四神の像、全てあるのかな?」 「どうだろう……でも、あっちに白虎らしき像は見えるよ」  さっきいた手水とは逆方向にたる手水をさす。 「あぁ、確かにそれらしきものが……」  話しているうちに大極殿につき、神社でお賽銭をいれお参りをすることになった。  何を願おうか⋯⋯。ねがいごと⋯⋯。何かあるだろうか?  薄目を開けて隣をみると、鈴木が目をつぶって願い事をしていた。  前を向き、再びちゃんと目をつぶる。そして、願い事を口に出すように、音なく口を動かした。 『未来の君が見る世界の中に、私がいませんように』  神様⋯⋯ここの御祭神は桓武天皇と孝明天皇だ。  願いを告げる。でも、決して叶えてもらうために願いを言うのではない。  これは一種の私の決意表明だ。偉人に対し、この決意を述べることで、これ以上自分の決意が揺るがないようにするための。  どれだけ鈴木に恋愛感情を持っていようと、揺るがないようにするために。  鈴木も自分を好きなのではないか。なら、付き合ってもいいのではないか。アピールしてもいいのではないか。  そんなふざけた希望を持たないようにするための決意表明。
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