2章

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 そうぽつりと落とされた声に違うそうじゃないと否定したいのに⋯⋯できない。 「一回あって、話を聞いてみたらどうだ? 」 「⋯⋯誰先生? 」  かろうじて声に出せたのは、それだけだった。 「山中先生」 「生物の? 」  穏やかそうなおじいちゃん先生の顔が浮かぶ。 「そうそう」 「⋯⋯職員室行ってみようかな。高二の職員室だよね」 「おう。一緒に⋯⋯」 「いや、大丈夫」  鈴木の声を食い気味に遮る。 「一人で行く」 「そうか? 」 「うん」  離れると決めたっていうのもあるが、進路相談は一人でしたい。  いつのまにか順番が来て、ミルクティーとサンドイッチを頼む。  鈴木の注文を見ていると、次々にパンの名前が出てくる、五個目にしてやっと注文が終わった。  なるほど。これほど食べるのであれば確かに学食のほうが安上がりだろう。  両手にパンを抱えた鈴木が廊下の片隅に立っていた私のもとに来る。 「じゃあ、鈴木は学食行くんだよね」 「あ、あぁ」 「うん、バイバイ」  止められる前に手を振って、鈴木から離れる。  何か私に本当は言いたいことがあったのだろう。でも、言わせるつもりはない。  罪悪感にふたをして教室に戻る。  友人たちの何気ない普段と変わらない会話を聞きつつ、ミルクティーをのどに流し込む。
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