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3章
待ち合わせ時刻ぴったりに十字路に着くと、すでに伊藤君はいた。
白の七分丈のティーシャツに細身の黒いパンツ。そして、シンプルな銀色の指輪がネックレスとして鎖骨にぶら下げられている。
私じゃなくて、待ち合わせに来るのが凛ちゃんだったらお互いよかっただろうに。
そう思い、心の中で溜息をついた。
下を向くと、自分の紺色のワンピースがひらりと舞い上がる。
舞い上がったことで、プリントされている黄色い花が歪んだ。
脚にまとわりついた生地を外し、コツコツと高いヒールのパンプスを鳴らしながら伊藤君のもとへ向かう。
色々考えたのだ。どういう格好で行けばいいのか。
その結果、おしゃれは女子の戦闘服という言葉を額面通りに受け取ることにした。
今、私は頑張っておしゃれをしている。だから、大丈夫。
そんな根拠も何もないような言葉を唱えながら、伊藤君の前に立った。
「ごめん。待たせた? 」
「待ってないよ」
デートの定番セリフをお互いに吐いた。
まぁ、この後甘い雰囲気になることは絶対ないのだが。なるとしたら険悪な雰囲気だろう。
「斎藤さん、可愛い格好してるね。そのワンピース似合ってるよ」
「ありがとう。伊藤君もシンプルな格好かっこいいと思うよ」
ニコリと微笑まれたので、ニコリと微笑み返す。
⋯⋯私たちは似た者同士だ。こういう点において。
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