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「大丈夫、大丈夫。ほら、斎藤さんも早く⋯⋯ってその格好じゃ跨ぐのは無理か」
ロープをつないである鉄の棒を伊藤君が動かす。
「これで、通れるよね? 」
「⋯⋯ごめんね」
そこを通る。
「⋯⋯ 斎藤さん、何気に俺に怯えてるよね?前から」
何も言えず、ただじっと伊藤君のネックレスを見る。
「そんなに怯えなくていいよ。暴力とかしないし」
伊藤君がわずかにため息を吐く。そのため息がなぜか癇に障った。
「⋯⋯ そういう問題じゃなくて、自分嫌ってる人に怯えずいろっていうのも無理な話じゃない?」
「人生の中で何人も出てくるであろう自分を嫌う人全員に怯え続けるの? 」
「今、言ってるのはそういうことじゃないよ。何も言わずに嫌うのがほとんどでしょ。でも、伊藤君は違う」
弓なりに細められた伊藤君の目をじっと見つめる。
「伊藤君は、私に明確な敵意を持ってる。その敵意を隠しもせず、向けられたら恐ろしいと思うものだと思うけど」
泣きそうになるのをこらうように、にっこりと笑う。
「敵意ね⋯⋯。まぁ、決着をつけるために斎藤さんを呼んだんだし」
伊藤君は階段を上っていく。
⋯⋯負けるかもしれない。いや、口論で私が伊藤君に勝てる勝率はほとんどないだろう。それでも、頑張るしかない。
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