3章

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 真鍋先生は驚いたように目を瞬かせた後、嬉しそうに笑った。 「斎藤、成長したな。昔は目を合して話すことすらできていなかったのに。声量もちゃんと出るようになって」  昔、クルミ人形みたいに首を振ってばかりいないで、ちゃんと声で自分の意思を示しなさいと注意されたことを思い出した。  確かに、その時に比べれば私は取り繕うことはできるようになっただろう。  でも、取り繕うことができるようになっただけで、今でも人と対するのは苦手だし、いきなり大勢の前で話すのは怖い。  そんなこと一切思っていないような演技ができるようになっただけだ。  果たして、これは成長したと言えるのだろうか。  そう思いつつも、認められたというのは嬉しい。 「ありがとうございます」 「伊藤は⋯⋯あいかわらずしっかりしてるな」 「そんなことありませんよ」  伊藤君は朗らかに笑う。 「先生、僕たちのこと覚えていらっしゃったんですね。驚きました」 「受け持った生徒のことは覚えてるよ」  当たり前のように先生は言う。  でも、その当たり前は決して簡単にこなせることではないだろう。
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