孤雨

5/7
前へ
/7ページ
次へ
夜、遅く。 僕は自然と目を覚まして、雨の音を聞いていた。この声が夢か現か、判然としない。 「やっぱり、駄目ですよね」 まさか、と声をかけようとしたが、出来なかった。そうするには、僕は随分と君のことを知らない。 「でも、もう十分ですから、ホントに」 嘘だ。僕に嘘は通用しない。 僅かに言葉を交わして、放浪の旅に誘われて、それだけだったじゃないか。 「平気です。平気……だから」 消え入りそうな声で呟き、君は僕の手を握った。泣きたくなるくらいか弱くて、冷たい手だった。 「……ごめんなさい」 雨が、止む。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加