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夜、遅く。
僕は自然と目を覚まして、雨の音を聞いていた。この声が夢か現か、判然としない。
「やっぱり、駄目ですよね」
まさか、と声をかけようとしたが、出来なかった。そうするには、僕は随分と君のことを知らない。
「でも、もう十分ですから、ホントに」
嘘だ。僕に嘘は通用しない。
僅かに言葉を交わして、放浪の旅に誘われて、それだけだったじゃないか。
「平気です。平気……だから」
消え入りそうな声で呟き、君は僕の手を握った。泣きたくなるくらいか弱くて、冷たい手だった。
「……ごめんなさい」
雨が、止む。
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