俺が振られるなんて世界の謎!

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俺が振られるなんて世界の謎!

 教えてくれ……一体俺のどこがいけないんだ。 「な。山田。どうして俺が振られなきゃなんないわけ? 俺のどこに振られる要素があるわけ?」  金曜日の夜。五十嵐遼馬は焼き鳥屋で同期の山田一彦に詰め寄った。五十嵐はグラスの半分ほど残っていたハイボールを一気に飲み干すと、ちょっと手を持ち上げ店員に合図し足を組み直して「同じもの1つ」と注文した。その仕草は麻布か六本木、ホテルのバーにでもいるようだ。仕事帰りのサラリーマンで溢れる酒場では浮きまくっていた。 「いやー……そういうところじゃね?」  山田は焼き鳥の串を串入れに放り投げるとそういった。 「は? そういうとこってどういうとこ?」  五十嵐は盛大に眉をしかめた。山田のいうことが心の底からわからない。山田は会社の同期で入社してから知り合ったが、なんでもはっきりと話すところが心地よく、プライベートでも行動することが多い。もちろん婚約者(元)のことも知っているので相談したというのにそっけない返事が返ってきた。 「今日は完璧な俺がどうしてプロポーズを断られたのか? その世界の謎を解き明かすためにお前を呼んだんだよ。それとかじゃなくて、ちゃんときっちりこれ以上ないほど具体的に説明しろよ」  山田はいかにも面倒臭いといった風にため息をつくと、ネギマで五十嵐を指して聞いた。 「お前さ、桃香さんになんっていって結婚申し込んだわけ」  五十嵐はフフンと鼻を鳴らすと得意げに説明を始めた。 「昨日は桃香の誕生日だったんだ。フレンチレストランに連れて行った」 「ほうほう」 「なかなか予約が取れない店でな。プロポーズのために1年前から予約しておいたんだ」 「へえ。それは気合入ってんな」 「そうだろう? やっぱり場所も選びたいからな」 「それで?」 「食事は評判にたがわず全てがスペシャルだった。俺のプランを完璧に遂行するための最高の演出だった。デザートまでは」  五十嵐の頼んだハイボールが運ばれてきた。山田は店員に空のジョッキを渡すと「すみません、生1つお願いします」と追加を注文した。 「お前聞いてる?」 「聞いてるよ。デザートまでは完璧だったんだろ?」 「そうだ」  五十嵐は気持ちを落ち着けようとハイボールを一口の飲んだ。弾ける炭酸が憂鬱な気分を少し爽やかにした。その様子を黙って見ていた山田はネギマの串を串入れに放ると聞いてきた。 「……もしかして、アレやったの?」 「アレとは?」 「アレだよアレ。跪いて指輪のケースをパカって開けるヤツ」 「ああ」  山田は声を出さずに「はあ?」という顔を五十嵐に向けた。 「なんでそんな顔する」 「いやいやいやいや。ないでしょ。それ、ないでしょ。その有名レストランでやったの? 個室?」 「やったさ。個室じゃなかった」  山田は両手で顔を覆った。 「なんだよ」 「そりゃ桃香さん恥ずかしかっただろうよ。悪目立ちして」 「俺たちはいつだって注目されるが、それは美男美女のカップルなんだから仕方がない。こういうベタな演出が喜ぶとネットにあった」  山田はこめかみを押さえる。 「なんといってプロポーズしたかだったな」 「ああ。もう、なんとなく予想つくけど」 「五十嵐桃香。いい名前だと思わないか」  五十嵐は山田相手にドヤ顔で昨晩のプロポーズを再現した。 「ダメ。それダメなヤツ」 「はあ? なんでだよ? いいか山田。五十嵐という苗字はだな、ある女性誌の調べによると女性の憧れの名前ナンバー1なんだぞっ」 「それと桃香さんがどう思っているかは関係ないだろ。夫婦別姓が結婚するしないの分岐点っていうご時世にさ」 「桃香が嫌がるわけないだろ」 「それってさ、ちゃんと桃香さんに聞いたわけ?」 「聞かなくてもわかる」 「いやいやいや。聞けよそこ」  山田のいうことはどうにも腑に落ちない。1年も前から準備をし、有名ブランドのダイヤモンドリング、美味しい食事に、感動の演出。誰もが憧れる条件が揃っているのに、なぜ桃香も山田もダメだというのだろうか。 「五十嵐さー、仕事はできるのになんでこうなの?」 「こうとは?」 「世の一般的な意見と桃香さんは同じじゃないだろ」 「俺がしてやることで桃香が嫌がるはずがない」  本当にそう思っている。これまで嫌がるそぶりは見せなかったと五十嵐は思い返す。 「じゃあさ、お前は桃香さんのどこが好きで結婚しようと思ったわけ」 「そりゃ、桃香は美人だ。俺と並んだ時にお互い引き立て合う」 「それから?」 「……料理もうまいし、服のセンスもいい。話し方も品がある。お嬢様大学出てるしな。勤めている会社も輸入雑貨の大手だ」 「いや、それ全部桃香さんの個性に関係ないことだよね」 「全て桃香のことだろう」 「桃香さんを構成する要素ではあるけど、その要素を満たしていれば他の女でもよくない? お前がいってるのはそういうこと。そして女性をアクセサリーかなんかだと思っている」  今度は五十嵐が黙る番だった。 「俺さ、お前のその嫌味なくらい自信たっぷりなトコも悪くないなって思っていたよ。人並み以上に努力してるの知ってるからな。でもさ、桃香さんの件はがっかりした。お前、彼女に……いや、お前自身にも失礼だろ」  山田は一気にそこまでいってビールを飲み干すとテーブルにお金を置いて、悪いけどお先にと席を立った。1人残された五十嵐はすっかり冷めて固くなった焼き鳥を見つめていた。 エピソード1・了
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