第5話 強化

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第5話 強化

「以上で夏休み中の諸注意を終わります。何か質問のある生徒はいますか?」 特に質問もなく、先生の話がおわる。 「では、その他質問はしおりを参考にしてください。それでは、有意義な夏休みを過ごしてください。」 有意義ねぇ。他のクラスメートにとっては至福かもしれないが、俺にとっては地獄でしかない。なぜならば、祖父との稽古が待っているからだ。 「なあ瞬一、錦宮さんや東雲(しののめ)さんも誘って海にいこーぜ!」 「錦宮はともかく、東雲は来るかどうか分からねーぞ。」 「そこをどーにかお願いします。」 「面白い話をしているね。僕も混ぜてくれるかな?」 そう言って現れたのは、佐々木君だった。 「まあ、いいけど。佐々木君の予定は大丈夫なの?」 「颯太でいいよ。どっちかって言うと瞬一のほうが有名だから。」 「いやいや、、、」 そんなわけねーだろと言いかけて、唖然とした。周囲で話を聞いていた人がほぼ頷いている。 (マジか) 「ごほんっ。えーっとそれはそうと、予定は開けられるのか?颯太。」 「君に名前で呼んでもらえるなんて光栄だね。あと、予定に関しては、確か日時が定まっていないんだよね?部活の方は、たぶん開けられると思うけど。」 や、やめてくれそんなまぶしい笑顔をみたら|その気があるんじゃないかと勘違いされる。 「そう言えば佐々木ってバレー部だったな。確かに、佐々木の言うとおりだぜ、日時くらい決めとこうぜ。」 そう言って亮太は、せっかちに話を進めようとする。 「お盆くらいでいいか?クラゲが多いけど。こっちにも予定があって。」 「僕は大丈夫だよ。亮太君は?」 「俺はいつでもどこでも大丈夫だぜ!」 あ、言っちゃえば暇なんですね。 「正確な日時は、アリサ達の予定も聞いてから連絡するわ。」 そう言って夏の風物詩である海への旅行が計画されたのであった。 ◇ 天河 玄璽(げんじ)と書かれた表札の前に立ち、呼び鈴をならす。インターホンではなく呼び鈴だ。 「よう、やっと帰ってきたかい。」 門が開くと、そこには見慣れた顔があった。 「ああ、ただいま爺ちゃん。ところでそちらの方は?」 祖父の隣にはスーツを着た偉そうな人が2人並んでいた。 「ああ、会うのは初めてだったか。こっちが警察庁の警察庁長官、厳島 幸雄(いつくしま ゆきお)さん。で、こっちが警察庁特務課の課長兼、国家公安委員会の本田 忠信(ほんだ ただのぶ)君じゃ。」 は、ちょっとまて。 公安でも驚きなのに長官ですか、もう笑うしかないんだけど。ハハハ 「厳島さんって爺ちゃんの同級生じゃん。で、本田さんは、俺の先輩?ってことになんのか。」 「天河師範の門下生と考えるとそうだね。だけど、強さなら君の方が上かもね。」 「いやいや、ご謙遜を。」 「ところで、玄璽と瞬一君の稽古を見せてもらえるか。」 見た目も名前も怖そうな厳島さんが尋ねてきた。 「ああ、ええよ。型合わせじゃけど、しかと見ときぃ。」 そう言って祖父は着替えに行ってしまった。 「それじゃ、俺も準備してきます。」 居たたまれなくなって、その場から去った。 ◇ 「準備は出来たか。」 いかにも武人です。っていう雰囲気を(かも)し出している祖父が、構えた。 「お手柔らかにな。」 そう答え俺も構えの姿勢に入る。 「忠信っ。掛け声を。」 「うっす。では、双方構えて。 、、、、、始め!」 キンッと空気が張り詰め、緊張が走る。互いに見合って動かない。両者共に、相手のを捉えようとしているのだ。とても長く感じる、一刻が過ぎ、先に動いたのは、瞬一だった。 「はあっ!」 体重移動によって繰り出された拳を、玄璽は腰を低く構えて手のひらで受けた。 パァン。乾いた音が木霊する。 「ちっ、浅いか。」 そう言って瞬一は、バックステップ式の加速(アクセラレート)で間合いをとる。 「こんどは、こっちからじゃ。」 縮地法によって、一気に間合いを詰めた玄璽は緩やかなモーションから、鋭いインパクトを繰り出す。 「うおっ、ヤバい。」 腕をクロスにして、防御姿勢をとるが間に合わない。 「ぐふぉっ。」 瞬一は後ろへ吹っ飛ばされた。 「発勁(はっけい)かよ。防御しても意味ねーし。」 「ふはは、それで終わりか。」 「いやまだだね。」 そう言って立ち上がると、低い姿勢を取り、脚に力を込める。 次の瞬間、瞬一が大きく跳躍した。 それに対し玄璽は、脚を大きく開き、腕を大きく振りかぶる。 「はーあっ!」 「ふんっ。」 瞬一の、重力に基づく位置エネルギーと、落下速度による運動エネルギーが加わった、重い一撃と玄璽の、高速体重移動による浸透勁(しんとうけい)がぶつかった。 空気の振動が波となって、辺りを駆け巡る。 勝負の結果は、 「いててっ。やっぱ強いな。」 玄璽が勝った(まさった) ◇ 「凄い迫力ですね。長官。」 「ああ、とても人間(わざ)とは思えない。 どうだ本田、あいつを特務課に入れてみないか。」 「大丈夫なのですか。彼はまだ15ですよ。」 「特務課なら、問題はない。あそこは、完全実力主義だからな。」 「長官がいうなら。少し交渉してみます。」 ◇ 「あー。さっぱりした。やっぱ稽古の後のシャワーって良いな。」 「瞬一君、ちょっと良いか?話があるんだが。」 そう言って声をかけて来たのは、本田さん?だったはずだ。 「はい、別に構いませんが。」 (面倒くさそうだな。) 「実は、君に特務課に入らないか、誘いに来たんだ。」 Why? どうしてそうなる。 「なぜ?って顔しているね。理由は長官が目をつけたからだよ。どうやら君は、頭も良いらしいじゃないか。」 (えー絶対いやなんですけど。超面倒くさいんですけど。) でも、ドミニオンの手がかりが掴めるかも知れないしなあ。 「条件付きでなら良いですよ。」 「よし。なんでも聞こう。」 いやいや、まだ何も言ってないのに了承して大丈夫? 「えーっと、条件はドミニオンのデータ全て見せてくれることと、ドミニオンの捜索の権限を僕にくれることです。」 「ドミニオンについては、あまりに知られていないが、力を尽くそう。あと、捜索の権限については補佐を着ければ、許可が出ると思う。君の妹さんの件は知っているから、尽力しよう。」 「分かりました。ありがとうございます。」 そんなこんなで、後に特殊精鋭部隊〈蓋世(がいせい)〉として知られる部隊が組織された。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 実力主義って、僕は好きですね。 聖徳太子だって、「冠位十二階の制度」で実力のある者を役職に就かせたらしいです。
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