1 消えゆく前に

3/13
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「国の為には私がいない方が良いと考えますが…」 12才の頃だったと思う。魔法の勉強の時に、ヴァシュロークにそう言った事がある。 「セレ。」 ヴァシュロークはそれだけ言うと、セレを真正面にじっと見据え、テーブルの上に魔法書を開いたまま暫く黙っていた。 その時のヴァシュロークの目は今でも忘れられない。 『怒り』『悲しみ』『慈しみ』…? セレには推し量れなかった。 ただ、その黄金の瞳は、深く、厳しく、温かく…美しい…と感じた。 セレをどこまでもしっかりと支え、励まし尽くそうとするヴァシュロークの強い意志と愛情はセレに伝わっていた。 「この世に存在が必要でないものは、最初から存在しないのだよ。」 暫しの()の後、ヴァシュロークはそう言った。そして、いつものように微笑んで 「君には時間が無いんだ。さあ、次に進むよ。」 と、魔法書を(めく)った。 「はい。」 セレは胸に灯が(とも)ったような気がして、とても安心したのを覚えている。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!