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「国の為には私がいない方が良いと考えますが…」
12才の頃だったと思う。魔法の勉強の時に、ヴァシュロークにそう言った事がある。
「セレ。」
ヴァシュロークはそれだけ言うと、セレを真正面にじっと見据え、テーブルの上に魔法書を開いたまま暫く黙っていた。
その時のヴァシュロークの目は今でも忘れられない。
『怒り』『悲しみ』『慈しみ』…? セレには推し量れなかった。
ただ、その黄金の瞳は、深く、厳しく、温かく…美しい…と感じた。
セレをどこまでもしっかりと支え、励まし尽くそうとするヴァシュロークの強い意志と愛情はセレに伝わっていた。
「この世に存在が必要でないものは、最初から存在しないのだよ。」
暫しの間の後、ヴァシュロークはそう言った。そして、いつものように微笑んで
「君には時間が無いんだ。さあ、次に進むよ。」
と、魔法書を捲った。
「はい。」
セレは胸に灯が灯ったような気がして、とても安心したのを覚えている。
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