1 消えゆく前に

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セレの一生の内でヴァシュロークと過ごした時間はかなりの割合を占める。 この離宮でセレの世話をしてくれる使用人を除けば、断然トップだ。 次に弟、その次が母親。 弟はセレの二歳下。名前をヤールと言う。 ヤール…つまり王位継承者の誕生で、ますますセレの存在は一部の重臣達にとって疎ましいものとなった。だが、セレは弟が可愛かった。 ヤールもまたセレを慕い、よく離宮に遊びに来た。少年時代の二人には離宮の周りの森は宝物だらけだった。 「(かし)の木の基地は今でもあるのかな…」 樫の大木の上、地上から5メートル程の高さのところに、ロープと木の枝で小屋を作った。二人とも『風の魔法』を使えたから高い所は怖くなかった。 森で見つけた面白い物…大抵はカッコいい甲虫や珍しい鉱石、洞窟や滝の()()など…を、その狭い小屋に持ち寄っては二人で自慢し合った。 離宮と王宮、それぞれの情報交換も抜かりなかった。 そんな楽しい『秘密会議』もセレの体調が悪くなるに連れ、できなくなってしまった。成長と共に進行する病なのだ。 せっかくヤールが遊びに来てくれてもセレが思うように動けず、やむを得ず帰ってもらう事もあった。 「ごめん、ヤール。」 セレは今でもその頃の事を思い出しては、時々呟く。
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