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ざー
ざーざー
ざーざーざー
やまない雨。
じめじめとした季節が再びやって来た。
僕はファミレスで注文をして、窓を覗いた。
雨が地面をたたきつけるように降っている。
まるで誰かに怒ってるように。
ざー
ざーざー
ざーざーざー
僕は後悔している。
この雨を見ると僕は思い出す。
そう、あれは今日のようなじめじめした日のことだ。
僕は親友を殺してしまった。
小学2年生からの親友。
僕にとって唯一無二。
これからさき、決して出会えないであろう大親友。
そんな親友を僕は非情にも無情にも殺してしまった。そんな話。そんなバッドエンドなお話。どうか聞いてほしい。単に僕は責められたいのかもしれない。もしくは、単に犯した罪を軽くしたいだけなのかもしれない。それでも僕は―
ざー
ざーざー
ざーざーざー
1年3組12番。一番後ろの席に座った僕は先に隣の席に座っていた親友のKにおはようと挨拶をした。Kもおうおはようと気持ちのいい笑顔を浮かべた。Kとは家も近く保育園も一緒だった。腐れ縁というやつだ。Kは正義感が強く曲がったことが大嫌いな勇敢な男だった。僕はそんなKのことが好きだった。だがそれと同時に僕はKのことが嫌いだった。
ある日のこと。
クラスのAがM君を中心とした5,6人の集団に体型のことでいじられていた。決して殴られたり蹴られたりしていたわけではない。単にM君が言ったおもしろい冗談を集団で楽しそうに笑っていただけだ。決していじめていたわけではない。それなのにKは我慢の限界だと席を立ってそれをいじめだと勝手に解釈してM君に突っかかってしまった。
それから1年3組では初めていじめが起きた。
最初は陰口。次は筆箱隠し。次は落書き。次は―
Kも最初は猛然と反抗した。気高く、勇敢に、まるで物語の主人公のように。
が、段々と追い詰められていった。
気が付けばきっかけになったAも、その少し前にいじられていたOも、その前にいじられていたSさんも、Hも、Eさんも、Iさんも。
Kってなんかうざくね。なんか正義の味方面がくさいよね。
わかる~すぐカッとなって。なんか乱暴だよね。
このまえなんて証拠もないのに筆箱便器の中に入れたのM君だって言って突っかかってたよ~
こえー。自作自演なんじゃない?
ねぇしってる?Kってお父さんいないんだって
うわーやっぱそうだとおもったー
こそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそ
せまい教室という空間にじめじめとよくない空気が蔓延し始めた。
なぁ、
振り向くと友達のM君がにやにやしてた。
ちょっとトイレ行こうぜ。
僕は誘われていた。
Kを切って俺らのグループに来ないかと。あいつは冗談も分らないしすぐに暴力をふるう。実際、あいつがいじめていたと言うやつらだってあれは冗談をお互いに言ってただけだって証言したじゃないか。もし仮に俺らがいじめをしていたとしても、Kは今の今まで見て見ぬふりを決め込んでいたじゃないか。
Kは正義感が強く、曲がったことが嫌いなんかじゃない。ただの卑怯者じゃないか。そんなやつについていくのか?
僕は考えた。本当にそうなのだろうか。ふいにKの怒った表情が浮かぶ。あれは卑怯者がする顔なのだろうか。
なぁ、お前は良い奴だ。だからあの卑怯者の肩を持つんだ。持ってしまうんだ。そのお前のやさしさに付け込んでKの奴はお前を卑怯の道に引きずり込もうとしているんだ。あいつはヤバイやつなんだ。この腹を見て見ろ。あざになってるだろ?これはあいつが俺に言いがかりをつけて殴って来た時の後遺症だ。あいつは証拠とか何もなくても自分の思い込みで人を殴るアブナイやつなんだ。おまえもいつ俺みたいに殴られるかわかったもんじゃないぞ。おまえは良い奴過ぎるんだ。俺はお前のことを友達だと思ってる。だからここまで気にかけてやってるんだ。Kは本当におかしいやつだ。なんかあったら俺に言え。なんとしても守ってやる。
M君は立ち去って行った。
ざー
ざーざー
ざーざーざー
傘をさして僕が考え事をしながら帰り道を歩いていると突然後ろからだっだっだっだっだと駆けてくる足音がした。
わりー傘なくしちゃってよ。半分入れてくれ!
Kだった。
僕は躊躇したが半分入れてやった。
Kはサンキューと言い傘の中に入って来た。少し窮屈になった。
それからはまたいつもどおり昨日見たテレビの話だの、好きな歌手の話だのを楽しそうにした。僕が新譜の話をすると嬉しそうにニカッと笑った。見ると前歯が一本なくなっていた。僕はドキッとしたがそのことには触れずにいた。Kも学校の話は全く触れずにいたためそのことは僕たちにとっての境界線だった。
いくらか思うところはあったが楽しく話をしていた。
お互い笑いに笑い雨音をかき消すくらいの笑い声をあげていた。
そんなとき、Kは突然足を止めた。
ざー
ざーざー
ざーざーざー
湿った雨は容赦なく暴力のようにKに降り注いだ。
雨に打たれるKの雰囲気が変わっていた。
なにか思いつめたような、なにか決心したような、なにか具体的な言葉が霧散するようななんとも言えない表情を浮かべた。
××××××××××××××××××
ザー
ザーザー
ザーザーザー
雨に濡れるなかKは雨音にかき消されるくらい小さな声でなにかをいった。
首をかしげる僕に笑みを浮かべた。そして再び繰り返す。
なぁ、もう今日のこれで最後にしようぜ
なんのことか分からなかった。いや嘘だ。わかっていた。わからないフリをした。
俺と関わるとお前もひどい目に合うかもしれない。俺が勝手に始めたことで親友のお前を巻き込むわけにはいかない。ごめん、こんなことはもっと早い内に言うべきだってわかってたんだ。でもどんどんと敵が増えていって、しまいには助けたかったやつらも敵になって。怖かったんだ。本当は後悔してたんだ。なんであの時立ってしまったのだろうって。なんでいつもみたいに知らんふりしなかったんだろうって。どうして湧き上がる気持ちを抑えれなかったんだって。だから俺は優しいお前を利用してしまった。お前の優しさの付け込んで巻き込んでしまった。俺のことを悪く言われるのはいい。だけど俺と違って上手くやれてるお前まで無理矢理巻き込んでしまった。本当にごめん。今日までありがとう。最後まで俺の味方をしてくれて。
Kは震えていた。雨でぬれただけじゃない。心の底からくる寒気に震えていた。
本当に僕は悪い奴だ。優柔不断で流されやすい。
そんなこと微塵も思ってない。心底迷惑してる。本当は大嫌い。
なのに
僕だけはKの味方だ。クラス全員がKの敵になっても僕だけはKの味方だ。僕は知っているKは悪くない。悪いはずなんてない。なんだって僕の大親友なんだぞ
ざー
ざーざー
ざーざーざー
雨は殴るように降り注ぐ。傘をさしてないKはびしょぬれだ。雨なのか、そうでないのか。目元に言葉にできない何かが溜まっているようにみえた。
次の瞬間僕は宙に舞った。
ざー
ざーざー
ざーざーざー
雨音がすべての雑音をかき消す。
誰が何を言っているのかは全くわからない。
Kは酷くびしょびしょにだった。
だが顔はどこか晴れ晴れとしていた。
僕はKにボコボコにされ病院送りにされた。
目を覚ますと僕は病室のベッドの上にいた。
窓を覗くと雨が地面をたたきつけるように降っている。
まるで誰かに泣いているように。
次の日Kが自殺したと知らせがきた。
なぜだろう。大嫌いなはずだったのに、いまは猛烈に雨に打たれたい。
僕はファミレスでアイスコーヒーを飲みながら思った。
あぁ、いつになればこの雨はやむんだろう。
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