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水玉世界
水玉世界
四、五歳くらいの女の子が、ぱたぱたと歩いている。傘を回しながら。
水たまりを少し踏んで、水が跳ねる。
着ているのは、水玉模様のワンピース。小雨が裾に降りかかる。
「こんにちは」
と、こちらに気づいて、大きな声で挨拶をした。
虹彩はまるで猫みたいに金色で、瞳孔は丸い黒。
どこかで、見たことがあるような顔。
「ふふ」
笑った彼女の、息が触れた辺り。ワンピースの柄が変わった。
色が次々に変わって、波打つようだ。
ぱちり、と、水玉の一つが瞬きをした。
「あら、起きちゃった」
女の子が大人びた口調でそう言うと、掌で模様をひと撫でする。
水玉は、すぐに目をつぶってしまった。
「少し、散歩をしていただけなの。だから、見逃してね?」
何を、とも聞けないうちに、女の子は背を向けて歩き出す。
ワンピースの背中から、ぽとんと、水玉が一つ滑り落ちた。
「落とし物!」
慌てて拾って、声を掛ける。
拾い上げた水玉が、手の上で、ぱちり。
瞬きと一緒に、辺りの景色が切り替わる。
辺りは白。
塀も家並みも、見当たらない。
きいん、と、何かの触れる音がしている。
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