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水琴窟のような、水の音。
「あれっ……?」
さっき見失った水玉は、足下で跳ねていた。目が合うと、もう一度ぴょん、と跳ねる。拾ってほしいようだ。
拾い上げて、他に動くものがないか探す。
「ここは、どこなんだろうな」
小さな水球が、いくつか浮かんでいる。一つずつに、天地が映り込む。ときおり、水球それぞれ別の景色がひらめくので、水玉も興味深そうに瞬きしていた。
しばらく歩くと、水球が多い辺りに辿り着いた。ひとの声も聞こえてくる。
「よし、よく見つけてきた」
制服姿の女子高校生が、先ほどの女の子をねぎらっていた。
女の子は両手を差し出した。ワンピースからこぼれた水玉が、ぴょんと跳ねて、高校生の肩に集まる。
「くすぐったいな」
笑って、高校生も手を伸ばす。指先に駆けていった水玉は、瞬きののち、宙へ飛び出した。すぐさま半透明になり、透明になる。まるで、雨のしずくみたいに、丸くなって、宙を滑る。そして、落ちない。
中空にとどまった水球の、間をぬって、女の子が駆けていく。
笑い声は、きんと澄んだ空気の中を、震えながら伝わっていく。
「おや、珍しいお客さんだ」
高校生が振り返る。
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