龍の噛み痕

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※※※ 白龍は見事に青く澄んだ空を自在に駆け、地上で暮らす娘を想う。 災いに巻き込まれ、不幸になる運命を背負わせてしまった幼い子供は、どんな困難にあっても理不尽なことを押し付けられても一生懸命に生きていた。 はじめは子供が不幸にならないようにと見守っていただけだったのに、いつの間にか誰かに傷つけられないように、誰かに奪っていかれないようにと見つめていた。 やがて子供は少女になり、そして若く優しい娘へと成長し、ついには娘に恋をする男まで現れた。 『人間に恋をしてはいけない。それは禁忌だ』 そうわかっていたのに、いつか誰かが娘に触れるかと思うと心は引き裂かれるほどに苦しくなった。 とうとう、白龍は我慢できなくなり、人間の姿を借り娘のいる地上に降りてしまった。 「渡したくないんだ……誰にも」 白瀬は美月に近づく男を前に、もう自分の心を偽れるほどの余裕はなくなっていたのだった───
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