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「あのすました顔してる白瀬の、大切にしてるものを奪ってやりたいんだよね。大切なものを奪われたアイツがどんな表情するか見てみたいんだよね」
白瀬くんの大切にしてる?もの?
それが、わたし……?
両の腕をつかまれ振りほどけない。
無造作に転がされてYシャツを無理やり開かれボタンが弾けとんだ。
「……い、やっ!!」
声が掠れて出ない。
そんなわたしに立田くんは嗤った。
「呼んでも誰も来ないさ。カギを掛けてるし」
屋上への扉を指差して、ニヤニヤと嗤いながら取り囲む男たち。
「やっ……やめ、っ!」
「俺が先ね」
「や、っだ。……たす、けて」
白瀬くん!!
頭の中に浮かんだ白瀬くんの姿。
掠れた声で名前を叫ぶと、突然、空に黒雲が広がりあたりが暗くなった。
穏やかだった空が一瞬にして反転し、風が吹き荒れ大粒の雨が落ちてくる。
「なっ!?なんだっ!?」
黒雲から稲光が走り、わたしの腕を掴んでた立田くんが雷に打たれ弾け飛んだ。
飛ばされた先にいた男たちの足元にも耳をつんざく轟音と共に大きな穴が空いた。
「そいつに触れるなっ!」
鍵が掛けられたはずの扉から現れた白瀬くんの瞳孔が縦に割れ、瞳が金色に光ってる。
髪が暴風に靡き、厳しく険しい表情を浮かべる白瀬くんの背後に、巨大な龍の姿が重なって見えた。
龍は荒れ狂い咆哮を上げて雨風を呼び、怒りの雷を落とした。
「うわああっ!」
叫び逃げようとした立田くんたちは、龍が空けた穴へと吸い込まれるように落ちていった。
「美月!」
「……白瀬、くん」
涙が止まらない。
白瀬くんはわたしの震える体を制服のジャケットを脱いで包むと、苦しくなるほどの力で抱きしめた。
「俺は幼いおまえに助けられた白い蛇だ。あの時、噛みついて呪いを掛けてしまったおまえのことをそばで見守っていくだけでいいと思ってた。だがそれはウソだ。俺はもう自分の心を誤魔化せない」
一気に告げる白瀬くんを見上げる。
あの幼い頃に出会った白蛇は白瀬くんだったの?
思い出した。
あんなに傷ついてた白蛇が、今はこんなに立派な龍になったんだね。
苦しげに眉を寄せる白瀬くんは、顔を寄せるとわたしのくちびるを塞いだ。
白瀬くんのくちびるからわたしの喉の奥へと温かくて丸いものが流れてくる。
喉に押し込まれてくそれをこくりと飲み込んだ。
「あの時、噛みついて俺は美月に呪いを掛けてしまった。その呪いから守りたい。これは俺の龍珠。」
「龍、珠?」
それは龍にとっては命そのものだって聞いたことがある。
「美月を守るためならどんなことだってする。命も惜しくない」
その言葉に胸の奥が熱くなった。
白瀬くんは知らないんだ。
白瀬くんがわたしを助けてくれたあの日から、わたしの特別だってことに。
「……つ!?」
そっと手を伸ばして白瀬くんの頬に触れた。
今のわたしにはこれが精一杯。
その頬にくちびるを寄せた。
「わたしを見守っていてくれて、……ありがとう」
龍の噛み痕。
それがいつしか龍と人間の恋を育てた───
完
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