雨音

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「あ、そういや、梨音、三者面談の紙出した?」 「まだ」 「明日締切だってよ」 「補講休もうかな」 「俺も俺も」 受験勉強はしていたが、大学に行くつもりはなかった。 母はどうしても進学させたいらしくもめている。 僕の進路なのに。 三者面談…決裂が目に見えて憂鬱だ。 何気なく窓の下を見ると、中庭に上を見上げるソウちゃんの姿が在った。 ビニール傘に青い髪が透ける。 「ソウちゃん…」 僕はもう走り出していた。 「えっ?梨音っ、何?何処…」 タツキの声が流れる。 ソウちゃんは中庭の真ん中に立っていた。 雨に濡れて走る。 「ソウちゃんっ、ソウちゃん」 「お、久しぶり」 「何?どうして?」 「通りがかり」 「通りがかりって、学校…」 「今日は半日だ。濡れるぞ。ざんざん降りだな」 ソウちゃんは、笑いながら僕の左側に傘をさし掛けた。 前に会った時より背が伸びたような。 傘が小さい。 「どうしてた?いつ以来だろ」 「ん〜忘れた」 「よくわかったね」 「まぁな。雨の匂いにつられた」 「なんだよそれ」 「この季節になると梨音のことを思い出すってこと」 「人を梅雨入りみたいに…今日会える?あの公園、3時前には行ける」 「OK。待ってる。傘、持ってんのか?」 「うん」 予冷が鳴る。 「あ、次体育だった。絶対待ってて」 「おぉ」 渡廊下まで僕に差し掛けた傘を高く挙げて振った。 透明なビニール傘に青い髪が滲んで見えた。
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