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いつの頃からだろう。
物心がついた頃には、既に雨は降っていた。
雨音に目覚めて、母に尋ねる。
「雨降ってるの?」
「梨音、起きたの?おはよう。雨?降ってないわよ。いい天気」
そんな会話を何度となく繰り返したと思う。
「厭な子ね。雨雨って」
などと怪訝そうに言っていた母も、多分余りに度々同じ事を言うので心配になったのだろう。
「なぁに?梨音、雨が降ってるみたいに見えるの?」
「ううん。雨の音が聞こえるんだよ」
「雨の音?ザーザー聞こえるの?」
「ううん。色々…」
それから、僕は両親に連れられて、近くの耳鼻科や大学病院で検査を受けたりしたが、それが先天性のものなのか、原因はわからなかった。
モスキート音のように、若い耳には聞こえるが、年齢を経るにつれ聞き取れなくなる音もあるので、要経過観察だと。また、念のため心療内科への受診も勧められ、1年に一度、両腕と受診したのは小学生までだった。
如何にも何かストレスを与えているかのような、念のための心療内科というのが、両親にとっては、釈然としなかったらしい。
受診が近くなると、両親は何か言い争いをして厭な雰囲気だった。
右耳は正常だったし、左耳も聞こえないわけではなく、僕が雨が降っていると言わなければいいのだと思うようになって、中学に入ってからは一人で病院へ行った。
勿論、雨は止むことなく降り続いていた。
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