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僕もミリィと同じで、可哀想なんだと言えば良かったのかな?
公園の前を通る度に、そんなことを思った。
中学生になってからは、耳のことをからかう人は居なくなった。
僕は1年に一度、1人で病院へ行った。
耳鼻科で、うーんと首を傾げられるより、七海先生と取り止めのない話をしている方がずっと楽だった。
少なくとも、耳の奥で雨が降っていることを信じてくれている。
そして、何より、ソウちゃんのことをよく知っていて、ソウちゃんは、七海先生を友達のようにナナと呼んでいた。
「勿論、止んだ方が良いに決まってるけど、それに、こんなことを私が言ったら、凄く怒られると思うけど、言っていい?言っちゃうけど。日本は雨が多いから、昔から雨は暮らしの中に溶け込んで、その呼び方は400以上もあるんだよね。止まない雨と上手に付き合うって考えてみてもいいかなぁって」
とか、何せ1年分だから、先生は僕の様子を見ながら、色々な提案をしてくれているのだろうと思った。
両親には、いつもと同じ。とだけ報告した。
それから、ソウちゃんとは何度か会った。
いつも、雨音がうるさくて誰の声も聞きたくない時。
ソウちゃんは、笑いながら
「土砂降ってんな」
と声を掛けて来る。
なんでもないみたいに。
ずっと僕の左側に居たみたいに。
ほんの少し、どうでもいい話をして、笑って、左耳に「わっ」と大声を吹き掛けて行ってしまったり…。
不意に現れて、また、不意に行ってしまう。
ただ、ソウちゃんの雨の色をした真青な髪に会うと、不思議と胸につかえていた塊のようなものが、洗い流されて行く気がした。
僕の中に降る雨が、何もかもを攫ってくれたらいいのに…。
雨は、只々止むことなく降り続ける。
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