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僕は、HRが終わると掃除当番をタツキに代わって貰い、ダッシュで帰った。
雨がズボンに跳ね返る。
通学路でなくなった公園の前を通ることは滅多になかった。
ソウちゃんは、奥のベンチに腰掛けていた。
青い髪。
「ソウちゃんっ」
「おぉ。早かったじゃん」
木陰のせいか、雨は傘にポツポツおちる。
ソウちゃんは、遠足の時に使うようなビニールシートを伸ばして、コンビニの袋からメロンパンを取り出して寄越した。
「あ、ありがと。待たせた?」
「んにゃ、それに、待つのは慣れてる」
「久しぶりだね。どうしてた?」
「どうって、梨音と一緒」
「やっぱ、大学行く?」
「どうかなぁ。そっちは?」
「揉めてる。僕の説得力がない」
「ああ、わかる。んで、ざんざん降りなんだ」
「えっ?耳?」
「そ、この季節になると、ナナが心配する。梨音のこと」
「七海先生?へぇ、昨年は行かなかったから、一昨年以来だ」
七海先生とは受診の度に色々な話をした。
「梨音の心配なら一年中だろって言ったら、本当の雨が続くと気持ちが塞ぐからって」
「ん、まぁね。え?ソウちゃん、七海先生のお使いで来てくれたの?」
「お使いって…まぁ…そうとも言う」
「止まない雨と仲良くなる方法って前に先生に言われて、考えたこともあったけど、それは考えない方がいいことがわかったから、最近は放ってある」
「ほっといて平気か?」
「ん…どうかな」
「この前、ナナと最近の10代20代には難聴や視力低下が著しいし、ゲーム依存とか感情のコントロールに支障をきたしてたりする。って話から、そのうち、人間の五感や感受性は退化して、A Iに支配される世界が来るかもしれないって。そうなった時、梨音のように、自分の中の音を感じることが出来る選ばれた人間は、天使の梯子を登って別世界に行けるんだ。みたいな」
「え?なんの話?近未来?」
「わからん。ナナの話だ」
「突拍子もないね。それ、心配って言う?」
「言わないな」
ソウちゃんは思い出し笑いをするように笑った。
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