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窓から眺める景色が、私は好きだった。
ベランダに出て、手すりにもたれてぼーっと雲を眺めていることもある。
雨の日に部屋から眺めるのは特に好きだ。インスタントで作ったホットコーヒーにミルクだけ入れて、ダイニングテーブルに座る。そこからただ窓の外を眺める。
雨が降ると、15階のこの部屋から見える遠くのビル群が、霞んで見える。
時に、総合駅周辺に立ち並ぶ高層のビル群の上部が、霧雲に隠れて見えなくなる。どんよりと重い雲の色の手前に、途中でブツ切れたビルが浮かび上がる景色がおもしろい。
全体が見えなくなってしまうことすらあった。高層ビルだけが、霧で覆われ跡形もなくかき消えてしまうのだ。
うちと駅の間にあるのにいつも景色に埋もれているいくつものマンションが、ここぞとばかりに存在感を増してそびえ、そうなると全く別の場所のように感じる。
幻想的というには大袈裟かもしれない。しかし、普段とは少し違う風景は、印象を随分変える。
それを静かに眺めるのが、楽しかった。
この日も私は、肘をテーブルに立たせて顎を支え、怠惰に雨を眺めながらコーヒーミルクを啜っていた。熱過ぎるコーヒーを、冷たい牛乳で少し温度を下げて飲む。猫舌気味の私のこだわりの(笑)、飲み方だ。
いつも通りの休日だった。
小雨だった。
霧はなく、ただどんよりと陰る景色だったが、さらさらと鼓膜をなぜるような優しい音が、心地良い。
その音に、酔わされたのだろうか。
もしかしたら私も、この雨で少しだけ変われるかもしれない。
変わりたい。
そんな風に考えたのは何故だろう。
突拍子のない、荒唐無稽な思い付きの為に、私は無意識のまま、立ち上がっていた。
いそいそと外出の支度を始める。
ストッキングを履かずに、スカートを纏った。シンプルな無地だが、地味ではない藍色が気に入っている。生地をふんだんに使った広がりのあるデザインで、七分丈程度の長さが上品に可愛い。
Tシャツは、ピンク寄りの薄紫色。鎖骨が見える程度に開いたもの。
シンプルなペンダントトップで首もとを軽く飾り、ビーズをあしらったカーディガンを羽織る。
靴からはみ出さないショートソックスと、ローファーを履いて。
普段使わないお気に入りの傘を手にして、家を出た。
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