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「沢さんは、川島さんを愛してますからねぇ」
笑いながら、私は冗談めかして口にした。いや、このセリフは間違いなく冗談なんだけれど。
その単語をわざわざ口にしたのは、冗談などではない、布石だ。
私の密かな決意を知りもせず、川島さんは、会話の軽さに乗って言い放つ。
「愛が重いっ」
あははっと、川島さんの笑い声が周囲に散っていった。
そして、あれ、という顔をしてこちらを見る。一緒に笑うと思っていた私が、笑わなかったからだ。
「春田?」
言おう。
そう決めて、家を出てきた。
決心して、めでたいだなんて欠片も思えないのにおめでとうと言わされる会に、出席した。
言って、終わりにするために。
「私もです」
私から川島さんへの気持ちを、断ち切るために。
「何が?」
私の中で静かに降り続き、ずっとわたしを悩ませ煩わせていた長雨から、逃れるために。
「私も」
そのせいで、今度は私と川島さんの間に冷たい雨が降ることになっても、良いと思った。
一人でずっと雨に降られ続けて、ずぶ濡れになってそれでも立ち続けるのはもう、無理だった。
「川島さんが」
大好きな人を悩ますことにしかならない一言を、私は、私のためだけに口にする。
……だって、悔しかった。
川島さんは、ずっと、私が特別だと言ってくれていたのだ。
私を喜ばせて、ときめかせて、泣かせた彼は、その同じ手で、私を突き放す。そんなの、ズルいと思った。
……違う。そうじゃなくて。
「好きです」
ズルいとかじゃ、なくて。
本当に、ただ、
「私は、川島さんが、好きです。ずっと」
それだけだった。
その一言で今後どう変わるとか、そんな思考などできなかった。どうしたいなどという甘い希望すら、なかった。
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