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「……ちょっと…理解が追い付きません」
「春田を好きだから、春田が俺を好きだと言ってくれて嬉しかった。でも俺は、もう、決めたんだ」
「……状況の変化に対して柔軟に対応することが肝要だと、いつも」
「状況が変更できないところまで進行している、ってこと。
俺は、麻耶と幸せになるって決めた。そしてもう、そこに向けて動き出した。麻耶も、家族も、会社のみんなも巻き込んで」
麻耶さんって名前なのか。
“川島さんの婚約者”という単なる概念でしかなかった存在が、突如明確に形作られた気がした。今更に胃が重くなる。
「……私を好きだと言った、その言葉は? 言葉を受け取った、私のことは? 私の気持ちは」
「……ごめん」
川島さんは、一言だけ呟いた。
そもそも私が、結婚を知らされてから告白に踏み切った、ということには欠片も触れない。
それがかえって、私の後ろめたさを大きくする。
それでも、
「俺は、麻耶と結婚する。
春田とはこれまで通りに、真剣に、付き合っていきたい」
ズルいと思った。
“仕事仲間として”真剣に付き合っていきたいというのなら、なんで“俺も好き”だなんて言ったのだ。そんな言葉は、必要なかった筈だ。
振ったら私の態度が変わるかもしれないという心配? 川島さんの自己防衛?
……確かにそう考えれば、真っ当な対処だ。
むしろ仕掛けた私が無配慮すぎた。大人として、仕事仲間として、私に自覚が足りないと言うべきところで、川島さんの反応を責めるのは私の自分勝手な言い分だ。
判っている。
判っているのに。
判ってるから。
……私はまた、動けなくなった。
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