本編

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思えばあの時から始まっていたんだ。おれとあいつの運命は。 お小遣いのほとんどを課金してしまい、金がほしいなと思いながら帰ってた時、みすぼらしいおっさんが宝くじの山を抱えながら走っていた。 多分あれだけ買えば一枚くらい大金が当たるだろうと想像してたくさん買ったんだろうと思った。鞄にでも入れればいいのにとも思った。そして案の定何枚か落としていた。おれはそれを拾って返そうと思っていたが、拾った時にはどっかに行っていた。返そうとは思っていたが、走って追いかける気にはならなかった。その時拾った10枚が大金に化けた。 おれはあまり恋愛に興味がなかった。女の子に対して性欲は湧くが恋愛感情は特になかった。でも変わった。席替えでたまたま隣になった子とすぐに仲良くなり、いつのまにか好きになっていた。ただ彼女にはすでに付き合っているやつがいた。同じクラスのミユキ君だ。少し地味で話したことがないけど、真面目そうで顔も悪くないやつだった。だからおれは付き合う気はなかった。でも告白された。当然ミユキ君のことについて疑問に思ったが、すでに別れたと言われた。胸が少しチクッとしたが、おれは初めて好きな人に告白されたことが嬉しくてそのまま付き合った。ミユキ君とは話したことがない。 自分で言うのもなんだがおれはクラスでは中心にいたと思う。彼女も友達もいて割と調子に乗って騒いでしまうタイプだった。先生とも仲が良かった。テストの2日前くらいに先生がまだテストを作り終わってないからヤバい的なことを言っていた。だからおれは冗談半分で「せんせー、ここ出して!」と言うと先生はやだよと言った。しかしテストに出ていた。おれは先生が少し天邪鬼な部分を知ってたからそこは出ると踏んでいた。だから出来た。ほんとは割とみんなできていたが。それを知らない人以外は。 部活は最初にいくつか兼部して面白そうなのを続けようと思っていた。うちの学校は公立の進学校でどの部活も大して強くなく、元から運動神経が良いおれならどうにでもなるレベルだった。その中でもバスケ部は顧問が素人ということもあり特にレベルが低く、簡単にレギュラーを取れるレベルになれた。見知った顔もちらほらいた。その中の一人はレギュラーだったが、練習中に腕を骨折して大会には出れなかった。そいつとは話していない。 おれはあの時、最悪だと思った。ミユキ君がおれのスマホに吐いた時。だから覆ってくれと望んだ。そして「最も悪い」は覆った。ミユキ君の家が燃えていた。 おれの望みは本当は大したことなんてなかった。しかもリスクなんてなかったから何度も色々望んでいた。そのツケは、ミユキ君が払っていた。知らなかった。もしかしたらただの偶然かもしれない、そう考えたが直感と本能がそれを棄却した。 もし、ここで、ミユキ君の幸せを、ミユキ君が救われることを望んだら、それは叶うのだろう。しかしそのツケもミユキ君が払うのだとしたら、最終的にミユキ君は幸せになるのか? もう、ダメだ。俺は最初から何も持ってなかったわけじゃないはずだ。だから失うことが余計に辛いんだ。最初から何も持たなければ良かった。望むだけ無駄だった。 俺は二行くんとは違う。二行くんは全てを持っていた。俺の全てを持って行ったんだ。運も彼女も努力も才能も。望んだものは手に入らない。手に入っても奪われてしまう。 望んでも無駄だ。 どうせ望みは絶たれるんだろ。 おれは、もう、望まない。おれの望みが彼の人生を左右するなら。彼の望みを奪ってしまうなら。おれはなにも。 つらい 解放されたい 死にたい 俺は死ねなかった。前に母さんの薬ケースから盗んだ睡眠薬を飲んで首を吊ったのに。目が覚めたら病院だった。俺は死ねなかった。 意識がはっきりしてから、家族は無事だったことと二行くんが亡くなったことを知った。
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