謎解きの始まり

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「あれ、もう凪カレー食べないの?」 まだ皿に半分ほどカレーを残してスプーンを置いた凪に、雫がご飯を頬張りながら尋ねる。 「俺なんて今からお代わりだぞ!」 得意げに哲が笑って席を立つ。 「大丈夫?凪、元気ないの?」 お母さんは優しい顔立ちを少し歪めて、心配そうに凪の顔を覗き込んだ。 「いやそういう訳じゃなくて」 凪が気まずそうに目を泳がせる。 「体調はすこぶる元気だよ、まあ」 「いーや!なひぃがひょんなにひゃなすなんておひゃしい(凪がそんなに話すなんておかしい)!」 「おい哲、お前僕のことなんだと思ってるんだ」 「コミュ障の人見知り」 「殴るぞ」 2杯目のカレーをかきこむ哲を冷めた横目で見ながら、凪が食器を持って流しへと持っていく。 「ねえ凪ぃー!結局どうしたの?まさか恋」 「雫黙れ、引っぱたくぞ」 「私女の子なのに」 「ああ!もう!言えばいいんだろ、言えば!」 凪がイラついたようにサラサラの髪をくしゃくしゃとかき回す。 「解けない数学の問題があんの!僕が尊敬してるアメリカの教授が出した問題で、絶対に解きたいわけ!それがあと少し、あと少しでなにか掴めるんだよ…」 そう言い終えると彼は荒々しく息を吐き出した。常に冷静沈着、ポーカーフェイスな凪が取り乱すのは、数学絡みが大半だ。 初めて話した言葉は「すうじ」、幼少期は絵本よりも算数の問題集を読み込んだ、そんな数学界の神童と呼ばれた、深山凪。 学生時代の模試の点数はぶっちぎりで1位、常に満点、偏差値は80超え。 凪にとっての数学は得意教科というよりも、もう恋愛対象だ。女の子の儚げさよりも、πや√の美しさの方が凪の前では魅力的だ。 「うっわ、出たよ凪の数学オタク」 「オタクじゃない」 「数学愛しちゃってんじゃん」 哲の冷やかしに凪はムスッとして何も答えない。 「え、もしかしてまじで愛してるの?冗談のつもりだったんだけど」 「哲、お前ほんとうるさい」 「うわー凪、それは君がいくらイケメンでもモテないわ、うん」 雫が憐れむような目で凪を見る。 「いいだろ別に!結婚願望ないし。てかもういい?早く部屋戻りたいんだけど」 凪がチラチラと時計を確認する。その様子を見て哲と雫は顔を見合わせて笑った。 「どーぞどーぞ」 「恋人との時間を邪魔する気はねえよ」 「もう何も言わないわ、諦めた」 ため息をひとつ残して凪がリビングから立ち去る。
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