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その日の帰り道、私たちはお互いのことを話した。 私たちは同じ寮の別々の階に暮らしていることが分かった。みどりは静岡から、私は愛媛からこの街へ出てきた。みどりの方も地元に民生を好きな人はいなかったという。 「でも別にみんなは民生のことバカにしてるわけじゃなかったと思うよ」 みどりはそう言って桜を見上げた。ソメイヨシノの並木道をやわらかい風が通り過ぎて、薄桃色の花びらがよくできた映画みたいに散っていく。 「それにバカにするってことは誰でも簡単にできる。好きなものを好きって言い続ける方が難しいんだよ」 夕陽に縁どられたその横顔は清々しかった。
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