序章

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 4人の中で一番小柄で、一番幼い顔立ち、そして実際一番年下のアドルフが、億劫そうにソフィー嬢に顔を向けた。 「……第四皇子アドルフ。狼の守護獣持ちだ。どうでもいいから、さっさと終わらせてくれよ。どうせ俺には関係ねーだろ」  見るからに不機嫌そうだ。  彼は第四皇子『アドルフ=バルドリック・フォン・ベルガー』。15歳で、4人の中で唯一まだ成人前だ。  母君は諸事情で実家に戻っており、乳母と給仕たちに育てられた。  これまでついてきた家庭教師によると、頭の回転も速いし、身体能力も良いのだが、やる気が決定的に欠けているとのこと。ある程度やると、すぐに周りの目を盗んで王宮を飛び出し、城下へ遊びに行ってしまうのだとか。……どこかで聞いたような話だ。  王宮内では問題児扱いされているものの、不思議と嫌われてはいない。  もしかすると、4人の中で一番カリスマ性を秘めているのではないだろうかと思う時がある。  目の前で悪態をつかれたソフィー嬢もまた、嫌な顔一つ見せずに返答した。 「そんなことはございません。私は皆さま全員に協力するよう仰せつかりました! 必ず皆さま全員のお役に立ちます!」 「皆さま……って……」  ”皆さま”のお役に立っても、選ばれるのはたった一人。それを理解したうえでの言葉だったんだろうか。  甚だ疑問だけれど、アドルフは思ってもみなかった回答に戸惑っているようだ。要は……心に刺さったらしい。他の方も、初めて顔を見た時とは一転、皆さま興味深そうにソフィー嬢を見つめている。  それもそのはず。先ほどからのソフィー嬢の返答……それらは、体験版で私が見た”正解”の選択肢ばかりだったのだ。  私がプレイヤーなら、上々の出だしと言っただろう。  ある程度の知識がある私ですらいきなり正解ばかり出すのは難しい。それを……彼女はやってのけている。さすがはヒロイン、この物語の主人公……いずれは全員を魅了する存在。  皇子たちは…………皆、何やらごちゃごちゃ考えたり、考えがまとまらなかったりしている。ソフィー嬢という存在に、いきなり全員心掻き乱されたようだ。  プレイした時は気付かなかったけれど……主人公・ソフィーの存在は、やはり大きい……いやそれどころか、輝かしいものなのではないだろうか。
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