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第一章(共通ルートⅠ)
ゲーム体験版ではここまでが序章。続いて本編が始まった。
一般的な乙女ゲームと同じような流れで、共通ルートに当たる第一章がある。特定の誰とも仲良くなる前の段階だ。
確か主人公ソフィーが毎日皇子の誰か、もしくは全員に”授業”を行うことで好感度と彼らの能力値が上がっていき、章の終わりにテストを実施する。皇子たちの能力値によってテスト結果が出て、それがいわゆるプレイ評価となる。
1章でひと月経過。時には授業なしで街に出ることもできる。
街に出たら出たで、行った先で皇子の誰かと遭遇して楽しく過ごしたり、時にはイベントが起こったり……といった具合にプレイヤーは色々な行動を起こせるゲームだった。
そして本日は、ちょうど第一章が終了したところ。
皇子たちは皆、慣れない相手との対話や、意外とやり手なソフィー嬢の授業、その結果のテストにと、諸々で疲弊していた。
疲弊していたからか……いつもなら銘々好きなように過ごすのに、今はこの談話室で珍しく4人揃ってだらけている。
ソフィー嬢のお世話がない時は皇子のお世話につくことになっている私は、いそいそと4人分のお茶を淹れていた。
「まったく、何なんだあいつは……」
呆れたように、困ったようにそう呟いたのは、第二皇子のリントヴルムだ。まったく意図が読めない(読んでいない)ように、レオンハルトが訊ねた。
「”なんだ”とは?」
「あの女だ。あのふくろうの……」
「おお、先生のことか!」
「ソフィーが何か?」
「リント兄のところでも何かやらかしたのか、ソフィーのやつ?」
「……え?」
彼女の名が出た途端、興味なさそうにしていた3人が急に詰め寄った。慌てているようではあるが、不快そうではない。
「ちょっと待て。僕のところ”でも”? まさか彼女……お前たちの前でも何かしているのか?」
リントヴルムが訊き返すと、これまた3人揃ってそっぽを向いてしまった。皆さん、なんてわかりやすい……。
4人とも奇妙な空気をお互いに不審に思ったのか、誰も何も指摘していないのに、咳払いをして語り始めた。
「そ、そうか……やはりか。まぁあれほどドジで隠し事のできない奴だ。誰の前でもやらかすことは同じだろう」
――いったい何をしたんだ? どうせバカなことだろうとは思うが、どこでも披露していいバカさではないだろうに……。
「うむ。裏表がなくて平等なのは彼女の長所だな。それに根性もある」
――清々しいほどに運動音痴だったが、どれほど遅れても必ず最後まで着いてくる根性は見どころがあったな、うん。
「まぁ……嘘がつけないっていうのは、美点かもね。弱点でもあるけど」
――とはいえ、あそこまで芸術音痴だとは思わなかった。きっと今までガリ勉してきたんだろうな。腹が立つのを通り越して哀れに思えてくる。
「でもなぁ……後先考えないからなぁ、あいつ」
――足遅いくせに俺の事追いかけて、挙句、路地裏でカツアゲされそうになってたなんて死んでも言えねー……
アドルフ様、それはさすがに聞かなかったことにはできません。後でそれとなく聞き出してみなくては。
まぁ、皆さまそれぞれ、印象深い出来事があったことはよくわかった。それらはいわゆる、プレイヤー視点でいう所の『個別イベント第一段階』である。
さて、それぞれどんなことが起こって、何を思ったのか……もう少し、耳を傾けてみよう。
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