序章

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 弱小貴族の養女如きがーーそう思ってはいたけれど、本当は1つだけ、王宮に召し出された理由に心当たりがある。  それは私が、神獣の守護を授かっているということだ。  このティエルスハイム帝国建国の折り、建国の祖であるアルフォンス・ベルガーが神の遣いである鷹を助けた事で守護を授かり、建国の暁には神より祝福を賜ったという言い伝えに端を発している。  だけどこれが単なる言い伝えでは収まらない。  それ以降、初代皇帝アルフォンスの子孫には、神の遣いである獣たちから守護を受けるということが代々起こってきた。時が経つにつれ、諸貴族、庶民にもその現象が起こるようになり、同時に皇族の中でも必ず起こる事ではなくなった。  神の祝福を受けるため、生まれた子は7日以内に必ず教会の祭壇に捧げられる。その場で神の遣いである神獣が守護を約束することが稀に起こるのだ。  神獣は、光と共に現れ、神よりその子供に賜った名と天啓を伝え、子供の身の内に宿る。子供の体には、守護獣の印が終生刻まれる。  守護獣が宿ると何か違うのか? ほんの少しだけ、違う。皆、少しだけ特殊な力を手にするのだ。  現皇帝カーティスは(わし)の守護を受けており、過去・現在・未来すべてを見通す力をお持ちだとか。  私は……イルカの守護を受けたらしい。それでいったい何が良いのかよくわからないが、この国では守護があるとないとでは、大きく違うのだ。  守護獣を宿す者は選ばれし者――そう思われているからだろうか。それとも人とは違う特殊な力を持つからだろうか。そもそも守護とは優秀な人材が受けるものなのだろうか。  とにかく守護獣もちは優秀な者が多いというのが、大半の者の認識だ。  守護獣がいれば王都の学術研究院にも学費免除で受け入れてもらえる。卒業後は重要な役職が約束されている。  こうして、農家の娘が弱小貴族になり、やがて王宮に召し出されるなんていう夢のような話も、現実になってしまうのだ。    メイドとして仕えていれば、皇帝や皇子の目に止まる機会がある。うまくいけばお手がついてお妃に……なんていう妄想が、養父の頭の中いっぱいに繰り広げられていることには、さすがに呆れた。  だが養父の夢が叶うかどうかはあやしい。王宮に召し出された私に最初に与えられた職務、それは…… 「貴女には、新しくみえる皇子たちの家庭教師(・・・・)のお世話をお願いします」 ……とのことだった。
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