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私を出迎えたメイド長は、いきなり、端的に、私のお役目を告げた。
「家庭教師……ですか」
「ええ。何かご不満でも?」
不満はない。ないが、右も左もわからない来たばかりの新人に、同じく新参者の世話を任せるのは合理的ではない。だが、メイド長の顔は不平不満も、質問すらも受け付けないと言わんばかりの顔だった。
仕方なく、質問も何も口にせず、ただ黙って耳を傾けた。
――いくら守護獣もちとはいえ、卑しい身分の者を王宮に招き入れるなんて……下級貴族の中に、ちょうど同い年くらいの娘がいて良かった。下級身分同士、気が合ってちょうどいいでしょう
そう、聞えてきた。これが、このメイド長の本心だ。
私には、それが聞えてしまう。それこそが、私が天啓と共に授かった力だ。
今までこの力で得をしたことなどなかった。胸の内など、だいたいは表に出せない言葉で溢れている。今の言葉のように。
「卑しい身分の貴族らしく、粉骨砕身する所存です。どうかよろしくご指導賜りたく存じます」
「!」
メイド長は、その鉄面皮を崩して目を見開いた。その言葉を言われるとは思っていなかったらしい。
「ええ、ご事情は概ねわかりました。この建国100年の記念すべき年に、皇帝陛下が国を挙げて盛大に祝われるとともに皇子殿下のどなたかを皇太子として披露しようとなさっておいでだと。4人の皇子殿下は皆さま神獣の守護をお受けになられていて、どなたも皇位継承の資格をお持ちですものね。だけど4人とも国の跡取りとして公表するには、どこか欠けていらっしゃる。だから、密かに優秀な人材をお呼びして教師としてつけ、とにかくどなたかを皇太子として恥ずかしくないように急いで育てようとなさって……」
「わ、わかりました! その通りです! その通りですから、それ以上はもう喋らないで!」
メイド長が慌てて私の口を塞ぎ、周囲に視線を走らせた。元より人払いをした彼女の執務室。私たち二人以外にいるはずもない。
それに……揃って守護獣もちの4人の皇子が皆どこか”変”だというのは、実は公然の秘密だ。みんな知っている。
そんな彼らを、立派な皇太子に育て上げる役割を担う家庭教師……それが、私のお世話する方だという。
――と、ここまで考えてふと気付いた。どこかで聞いた話だと。
それぞれ優秀なのに、どこか残念な4人の皇子。皇太子教育。守護獣。家庭教師。その家庭教師には、世話係のメイドが1人……!
「ああぁ!」
私の叫び声に、再びメイド長が驚いていた。だけどそれに構ってはいられなかった。私も、驚いているのだ。信じられない。
信じられないが、今まで見てきた知識と合わせて考えると、1つの結論に達してしまった。
この世界は、物語の世界。
私が死ぬ前に体験版だけプレイして、ようやく発売されたのについぞプレイすることのできなかった乙女ゲーム「聖獣遊戯」の世界そのものなのだ――!
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