スイートテンダイヤモンド

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「お父さんが勝手にさ、お母さんの引き出しに指輪しまっちゃったんだけど。もしお兄ちゃんのだったら、お盆にでも取り返しての」 「ああ……うん」  お盆に帰省したら、まずは母さんの墓前で謝らないと。そして指輪をちゃんと元の箱に戻して、それから…… 「あのイタチ……チクワ? はさ、庭にでも埋めたのか?」 「まだだけど、たぶんそうする。あ、それとの、今さらだけど、獣医(おいしゃ)さんによると、チクワはイタチじゃなくて(テン)だって。テンは昔から美女に化けていたずらする伝承があるんだって、お父さん笑ってたよ」  指輪のこと、チクワのいたずらだと思ってんなかなぁ、と、妹は独り言のように呟いた。  俺はチクワ女のことを思い出した。確かに、大きなつり目が印象的な美女だった。麻友奈ちゃんを追いかける背中に揺れていた長い茶髪。あれはまるで、ふさふさのテンの毛みたいだった。  指輪、取り返してくれたんだな……  あの夜、あいつを車で跳ねたのは俺なんだから、恩返しする義理なんかなかったのに。妹に預けっぱなしで世話もせず、存在も忘れていた俺のバカなプロポーズを、必死で止めようとしてくれた。麻友奈ちゃんの本性を暴くために、顔にケガまでして。  玄関先でチクワを邪険にあしらった時、俺はどんな顔をしていただろう。きれいな瞳に映る荒んだ自分の姿を想像して、胸が痛んだ。
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