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麻友奈ちゃんは、怯えた顔を後ろに引いた。
そりゃそうだ。初対面の、それも金色に近い髪の女に鼻先10cmまで詰め寄られたら、誰でも怯む。
背もたれに張り付くように下がった彼女の縋るような視線を感じ、俺はチクワ女の肩を掴んだ。
「ちょっと……」
「待ってくださいね、絶対会ったことあると思うの。それかあれかな? 新聞とか雑誌かな? モデルとかやってました?」
恥ずかしがり屋の麻友奈ちゃんが、モデルなんかやっていたはずがない。
肩を掴んだ手に力を入れると、女はテーブルに乗り出していた上半身を素直に引いたが、態度は引かなかった。俺の隣の椅子に勝手に座って肘をつき、箱を持った手をぷらぷらと振った。
「あのぉ、お名前教えてくれません? 昔のクラスメイトとかなら、名前で思い出せると思うんで」
年齢的には近そうだから、そのセンはあるかもしれない。だとしても、この構図はまるで、かつてのいじめっ子とその被害者だ。麻友奈ちゃんは恐怖を感じ始めたのか、唇が震えていた。
「あ、これ気になります? さっきから目が釘付けですね。じゃあちょっとだけ、パカッ」
女は白い小箱をミミックみたいに開き、中身を見せた。大粒のダイヤが、明るい日差しにキラリと光る。見開かれた麻友奈ちゃんの目も、キラキラと輝いた。
それは俺がやりたかったのに。スマートに差し出した小箱を彼女の目の前で開けて、彼女はびっくりした後に最高の笑顔で笑って……それを何度も、何度も想像したのに。
愕然とした俺の隣で、チクワ女は指輪の箱を閉めた。
「光るものが好きなんですね。そういえば黒くてつやつやで、カラスみたい。あ、でもカラスっていうより、むしろ……」
女は手中の獲物をいたぶる猫みたいな顔を傾けて、麻友奈ちゃんを覗き込んだ。
「サギかなぁ」
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