スイートテンダイヤモンド

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 麻友奈ちゃんに初めて会ったのは、3ヶ月前。社長に連れていかれたキャバクラだった。 「こいつ、石田。田舎モンだからいろいろ教えてやってよ」  女性が隣に座る系の飲み屋に行くのが人生初だった俺を、社長はそんなふうに紹介した。  就職した工場は一族経営の零細企業で、俺は(なま)った田舎者だとバカにされている。安月給で仕事はキツい。ただ「東京で働いている」という外ヅラだけに憧れて決めた就職だった。 「私の父、東北出身なんです。石田さんの話し方は、父に似ていてなんだか安心します」  麻友奈ちゃんは、訛りを晒すまいと無愛想にしていた俺の隣で、控えめに微笑みながらそう言ってくれた。そして驚いて見返した俺の顔が怖かったのか、慌てた様子で付け足した。 「あの、気を悪くしないでくださいね。私、父が大好きだったので……」 「この子、死んだ父親の借金のせいで大学辞めて、この仕事してるんですよぉ? それなのに大好きとか、いい子すぎじゃないですかぁ?」  社長の隣に座る女性のからかいに、麻友奈ちゃんは少し俯いて、困ったような顔で笑っていた。  こんなおとなしそうな子が水商売なんて、と意外に感じていた俺は、その話で合点がいった。そして、個々の事情も知らずに夜の街で働く女性たちに偏見を持っていた自分を、恥ずかしく思った。 「また来てくださいね」  帰り際に渡された名刺に書かれた手書きのIDに、ドキドキしながらメッセージを送ったのが随分前のことのように感じる。  あれから何度やりとりを繰り返しただろう。  いつでもすぐに返信をくれた麻友奈ちゃんとのLINEには、俺からの緑色の吹き出しばかりが並んでいる。カフェでの一件以来、既読さえつかず、電話にも出ない。  日が経つにつれ不安が募った俺は、次の週末、彼女の勤め先のキャバクラに足を運んだ。そしてそこで、衝撃的な事実を知ることになった。
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