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スマホの着信音が部屋に響いたのは、真夜中の少し前。わずかな期待を胸に表示を見るとそれは田舎の妹からで、俺は落胆とともに通話ボタンを押した。
「お兄ちゃん、夜中にごめんの。今大丈夫だっけ?」
妹のイントネーションがやけに懐かしい。一緒に住んでいた頃には、年寄り連中と違って若い俺らは訛っていないと自負していたのに。
「あぁ、どうした?」
沈んだ気持ちを悟られないよう明るい声で聞くと、妹は謎の言葉を口にした。
「あのの、チクワが死んじゃったの」
「チクワ?」
「あ、やっぱり忘れてた? ほら、お兄ちゃんが東京さ行く前の日、国道でケガしたイタチ拾って帰ってきたろ」
そう言われて思い出した。2年前、俺は家の車で田舎の国道を走っていた。翌日には東京へ発つことが決まっていて、夜空からは俺の前途を祝福するみたいに星が降っていた。
こんな星空ともお別れだな……感傷に浸りながら空いた直線を走っていたら、さっと目の前を横切ったものがあった。急ブレーキをかけたが、間に合ったかどうかわからない。俺は車を止め、懐中電灯を手に路肩に下りた。
道を戻りながら注意深く探すと、茶色い毛玉のようなものが路肩傍の草の上に落ちていた。ふさふさの毛皮のそれは体長15cmくらいのイタチで、気を失っているが出血はしていない。とはいえ骨が折れているかもしれず、そのまま放っておいたら他の動物に襲われるに決まってる。
俺はそのイタチを防寒用の毛布にくるんで連れ帰り、妹に後を頼んだまますっかり忘れていたのだった。
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