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「こんにちは! あのとき助けていただいたチクワです」
アパートのドアを開けたら、茶髪の女が立っていた。チクワではなく、どう見ても人間の女だ。
わりと美人なのに……最近暑いからな……
気合いを入れて出てきたのに出鼻を挫かれた俺は、女と目を合わせないように顔を伏せた。
「人違いですよ。チクワとか助けた覚え、ないんで」
横を通り過ぎようとすると、女は機敏な動きで俺のジャケットの袖を掴んだ。
「今日、土砂降りになりますよ! 出かけない方がいいんじゃないですか?」
「はぁ?」
「ステキな服なのに、びしょ濡れになっちゃいます! お出かけはまた今度にしたらいかがですか?」
今日は快晴、降水確率は0%の予報だ。俺はため息をつき、駅に向かって歩き出した。
「あっ、待って! それじゃあ私も、一緒に連れて行ってください! 私と一緒にいると、いいことあると思いますよ!」
「冗談じゃない!」
俺は立ち止まって女を睨んだ。
「はっきり言っておくけど、俺は宗教にもマルチ商法にも興味ない。男は誰でも美人にほいほい騙されると思ったら大間違いだ。悪いけど急いでるから、他を当たってくれ」
「急いでるって、待ち合わせですか?」
女は怯んだ様子もなく、大股で歩く俺に小走りで追いすがる。
「ついて来るな!」
俺は気味が悪くなって走り出した。駅までの道のり、走ればあと4分。チクワ女が俺のペースについて来たらホラーだなと思ったが、さすがにそれはなかった。
女を振り切ったことで安堵した俺は、待ち合わせのカフェに向かうため、電車に乗りこんだ。
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