ラスピラズリが降る夜に

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 モゴック星、唯一の「ラスピ族」が住んでいる場所。  山と湖に囲まれた静かな宝石と魔法の町は、ミラッドと呼ばれていた。    町の中心には採掘湖があり、水面は七色に輝いている。この湖をすり鉢状の山々が囲む。湖から階段を上がるように山の中腹付近に、ラピス族は集落を作り生活していた。  家々は多くが木造で、屋根は黄土色に塗られ、宵を迎えると夕陽の紅と交じり合い、宝石の様に燦々(さんさん)と輝く。湖には揺らぐ茜色の太陽が反射し、サンセットを迎えていた。  ミラッド内の道は剥き出した茶色の土道で、道路を走る車のタイヤは砂埃を巻き上げた。砂は舞い上がり、僕の顔をもやで包んだ。 「ゲッホ、ゲッホ、最悪だ、口の中に砂が入った」 「なんで、魔法でバリアをしておかないのかね? あんたは魔法の使い方を知らない赤ちゃんかい?」 母が僕を見下ろし、呆れたようため息をついた。 彼女は手を扇ぐ様に僕に向けて振った。 僕の体がシャボン玉の様な半透明の膜に包まれた。 物理衝撃を跳ね返す魔法、バリアが僕にかけられた。 「だって、魔力って限りがあるんでしょ? 僕はとっておきの為に置いておきたいんだ」 「なんだい? とっておきって。何度も言ってるように、私達は一生このミラッドから出られないんだよ。出たとしても、それは星統領様(ほしとうりょうさま)のお仕事のためさ」 「母さん、そんな夢のない事言わないでよ。僕はこの町以外の風景も見てみたいんだ」 「それは、チャンスが無いと無理だね」 僕の夢はこのミラッド以外の町の風景を見る事、そして、この町以外には住んでいると言う「人間」と話す事だ。  母を見上げると銀色の髪が風に遊ばれている。  僕の髪も同様な色だ。瞳はクリアブルーで、僕たちの涙の宝石、ラピスラズリと同じ色をしている。この宝石が涙として目から出て、魔法が使えるせいで、僕たちは一生をほぼこの町で過ごす。  希少価値がある星唯一の最古の魔人の保護、と聞こえは良いが、要は魔力を使い果たした時にラスピ族に関わって、記憶を失う事を恐れているからだ。綺麗事で塗り固めた、他の種族からされている、差別的な幽閉である。  ラスピ族の主な仕事は町の中心にある採掘湖に行き、サファイヤやルビー、ダイヤモンドの発掘する事。その、出てきた宝石の原石や鉱石を街に来たバイヤーに売って、現金に換える。そして、得た現金で街に物を売りに来た商人から生活に必要な衣類や食料を買う。  牛や鳥は放牧しており、乳や卵を得て、穀物は麦を自給自足をしている。乾季は乾いた大地であるが、雨季には湖周りの山々には緑が生い茂り、山菜も多く採れる。
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