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それからラズが怪しい者ではないのか、嘘をついていないのか、魔法で姿を隠しながら探った。
彼女は時計台の横の荒れた家に住んでおり、貧困層であることがわかった。一緒に暮らしている父親は酒に溺れ、盗みを働き、牢屋に入っていた。盗みの刑期が開けると再び生活のために盗みを働き、捕まって牢屋に入る、それを繰り返していた。盗んだお金や金品でラズは生活をしている様子だったが、父親が捕まると空腹に喘いでいた。
母親は病気で入院しており、お金がないため手術も出来ずに治療が出来ないとの事だった。
そんな時は僕が魔法でパンや食材を出し、ラズに渡した。
「ノゼ、ほんとうにラスピ族なんだね」
「うん。そうだよ。だからラズが僕にお菓子をくれたのはびっくりしたよ。僕たちは魔法で空腹は凌げるから」
「おなかへらないの?」
「うん、魔法でごまかせる」
「でも、美味しいもの食べたいでしょ」
ラズはそう言って、僕に空腹がないと言っても自分が食べるものがままならないのにも関わらず僕の心配をしてくれた。時に飲食店で働き、何とかして僕に食料を運ぼうとすることさえあった。昼間は学校にも行かず働き、夜は時計台にやって来た。十歳の小さな女の子だったけれど、ラズは生きるために必死で、自分の事で精一杯な筈なのに、ラスピ族の僕にもとても優しかった。
僕たちは夜のレンガの時計台の上で色々な話をした。
「わたし、貧乏だから学校も行ってないの」
僕はこっそりラズの後をつけていたので、知っていたけれど、知らないふりをした。
「だから、友達もいないの。ハンカチでノゼの顔を拭いたのはね、前に歳の近い子に中々お風呂に入らないから臭いって言われたから……ノゼが他の人にそう言われたら悲しいかなって、思って渡したの」
「そうだったんだ。でも、僕は魔法があるから、ラズが心配しなくても大丈夫だよ」
「まほうって、でもまりょくを使うんでしょう? ノゼのまりょくが減ったら、わたしがノゼを忘れちゃうんじゃないの? そんなのいやだよ。だから、まほうは使わないで欲しい。わたしが働いてご飯も持ってくるから。友達を忘れちゃうのは嫌だよ」
「心配しなくても大丈夫。ラスピ族の魔力はそんなに簡単に無くならないから。寿命も長いし」
「ほんと?」
「うん、ほんとだよ」
ラズは僕の言葉に心底安心したように笑った。
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