懐かしい笑顔

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懐かしい笑顔

 都会から一人引っ越してきた僕は荷物の片付けが終わり一息ついていた。  「今年はどんな1年になるのかな・・・・・・」  ガシャン!!  「ん? 何だろう? 今、凄い音がしたけど・・・・・・」  慌てて玄関に急ぎ、僕は部屋のドアを開け放った。  そこには掃除用具を散乱させ、尻もちをついている少女の姿があった。  「いたたたた・・・・・・また転んじゃった・・・・・・」  「あの子どこかで・・・・・・」  少女の面影に僕は懐かしさを覚えた。  この光景は幼い頃に見たことがある。それも一度じゃない・・・・・・。  「もしかして、佐菜ちゃん・・・・・・?」  「えっ・・・・・・? どうして僕のこと・・・・・・?」  目の前の少女は突然顔をくしゃくしゃっとさせた。そして、うるんだ瞳で僕に駆け寄りーー突然僕に抱きついてきたのだ。  「佐菜ちゃん! 本当に佐菜ちゃんなんだね!夢じゃないんだよね?」  泣き出しそうな顔で少女は僕にしがみつく。  「えっ? えぇっ!?」  僕はどうしていいのかわからず呆然としてしまった。  「えっと、あの・・・・・・」  戸惑いがちに少女の肩を引き離すと、少女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。  「ご、ごめんなさいっ! 突然抱きついたりして・・・・・・」  「謝ることはないけど・・・・・・」  「佐菜ちゃんに会えたことが嬉しくって。ずっとずっと夢に見てきたことだったから・・・・・・」  そう言うと、少女は僕の存在を確かめるように見つめた。  「えっと、その・・・・・・キミは・・・・・・?」  「もしかして、佐菜ちゃん・・・・・・わたしのこと忘れちゃったの?」  少女の瞳が『信じられない』とばかりに大きく見開かれていく。  「ごめん・・・・・・。面影はなんとなく見覚えがあるんだけど・・・・・・」  「佐菜ちゃ・・・・・・」  ポツリとつぶやいて、少女はへたり込んでしまった。  「大丈夫!?」  僕は慌てて少女の顔を覗き込んだ。  「うん・・・・・・」  力なくつぶやく少女。  僕が彼女のことを覚えていなかったことがよっぽどショックみたいだ。  「立てる?」  「うん・・・・・・」  再び力なくつぶやくと、そのまま慌てて立ち上がろうとして・・・・・・少女は再び転んだ。  「いったーい!」  僕の脳裏にデジャヴが再びよみがえる。  目の前で転ぶ少女のに姿・・・・・・この少女は僕のごく身近な存在だ。  「・・・・・・もしかして・・・・・・?」  少女の表情がパッと晴れ渡る。  「佐菜ちゃ・・・・・・思い出してくれたのね・・・・・・」  少女の大きな瞳から大粒の涙があふれ出す。  やっぱり、麻緒衣だ。  この少女の名前は『織部麻緒衣(おりべ あおい) 僕の従姉であり、幼い頃いつも遊んでいた幼馴染でもある。  麻緒衣は昔からよく転んだ。  なにひとつ障害物が無いというのに、ことあるごとに転ぶ。そして、転んで泣きべそをかいた麻緒衣を泣きやませるのが僕の役目だった。  どこか危なっかしくてほっとけなくて、僕はひとつ年上の麻緒衣を妹のように思っていた。  「大丈夫? 麻緒衣」  僕は麻緒衣に手を差し伸べながらも、込み上げる笑いをかみ殺すのに必死だった。  「ひどいよぉ、佐菜ちゃん、笑ってる」  「ごめんごめん、だって、麻緒衣、昔と全然変わってないんだもん」  かっこよく感動の再開を果たそうと思ったのになぁ。今日のために洋服も買ったんだよ」  「いや、感動はしたよ。人はこんなにも成長しないものなのかとしみじみ・・・・・・」  「もう! 佐菜ちゃんのバカ!」  「冗談だよ、麻緒衣。怒るなって」  唇を尖らせ見上げるように僕をにらんだ麻緒衣。  「佐菜ちゃんだって変わってないんだからね!」  「はいはい、わかったて」  「少しは・・・・・・背も高くなったし声も低くなったし、変わったとこもあるけど・・・・・・けどけど、わたし、一目で佐菜ちゃんだってわかったんだから」  麻緒衣が言うように、僕も昔と変わっていない。その証拠に、今もこうして昔と同じように泣きべその麻緒衣を泣きやませている。  泣いたり怒ったり笑ったり・・・・・・くるくると表情を変える麻緒衣を見て、僕はほっとしたような微笑ましい気持ちになった。  ちっとも変わっていない麻緒衣と僕の関係ーーそれは、僕の中にあった不安を少しだけ和らげてくれたような気がする。  「あれ? そう言えば昨夜、叔父さんたちに挨拶に行ったとき、麻緒衣になかったよね?」  「え? う、うん・・・・・・」  麻緒衣はなぜか恥ずかしそうに顔を赤らめた。  「どこか出かけてたの?」  「それが・・・・・・その・・・・・・・・・・」  「???」  「もう、言わせないでよ〜! もう寝てたの! 待ちくたびれて寝ちゃったんです〜!」  「ああ、なーんだ。相変わらずお子様だなあ」  「もう〜!」  麻緒衣は再び唇を尖らせると、ぷいっとそっぽを向いてしまった。  「ごめんごめん、もう言わないから」  たいして怒っていなかったのか、僕が三度謝ると麻緒衣はすぐに機嫌を直してニッコリ笑った。  「ところで、お部屋のお片付けも一段落ついたみたいだし、うちでお茶でも飲まない? 」                                                              
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