眠れる森のお姫様

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眠れる森のお姫様

 「お、麻緒衣の天気予報当たったな」  窓の外は見事な快晴。  きっと天に麻緒衣の願いが届いたんだろう。  『みんなと同じクラスになれますように』という願いも叶えられるんだろうか?  今朝は始業式に出なくていいから、ゆっくりしていられる。  僕は簡単に朝食を済ませると、晴れ晴れとした気分で支度を始めた。  「よし!」  気合を入れて、鏡を覗き込む。  真新しい制服に包んだ鏡の中の僕がうなずき返してくれた。  「そろそろ学校に行く時間だな」  昨日あれだけ早起き宣言してたけど、麻緒衣はちゃんと学校に行ってるだろうか?  僕は一抹の不安を感じながら部屋を出た。  麻緒衣の家を横目に見つつ、そのまま通り過ぎようとする。  すると、どういうわけか家の中からベルのような音が漏れ聞こえてきた。  これは目覚まし時計の音?  え? そんな、まさか・・・・・・!?  僕はたちまち不安にかられて、玄関のドアへと向かった。  聞き違いじゃない、これは目覚ましの音だ。  目覚まし、止め忘れたのか?  何度もチャイムを鳴らしたけど返事はない。当然、叔父さんも叔母さんももう仕事に行ったんだろう。  麻緒衣も学校にいってるはずの時間だ。  目覚まし時計の音は一向に鳴りやまない。しかも、よく聞くと目覚ましの音はひとつではなく、たくさん鳴っているようだった。  「え? なんで??」  これは尋常じゃない。  どうなっているんだ??  「おーい、麻緒衣ー? 麻緒衣、いるのかー!?」  しかし、聞こえてくるのは目覚ましの音だけ。  焦って反射的にドアノブの回したら、なんと鍵は開いていた。もはや緊急事態だ。仕方ない、ちょっとあがらせてもらおう。  「おじゃましまーす」  玄関に足を一歩踏み入れた途端、大音量の目覚まし時計の音がガンガン響いてくる。  ど、どうなってんの・・・・・・? 耳を押さえながら家の中へあがり込む。  すると、ヘンゼルとグレーテルのパンくずのように、廊下に目覚まし時計がひとつふたつ・・・・・・と並べて置いてあるのが見えた。  そのどれもがガンガンに鳴っている。  これが、たくさんの音の正体ってことか。  よく見ると、目覚ましの行列は一方は階段へ、もう一方はダイニングへと続いているようだった。  階段の目覚まし時計は、まだガンガン鳴っている。ということは・・・・・・まさか・・・・・・・・・・・・。  「麻緒衣〜!」  僕は階段の上に向かって呼びかけた。  「いるの〜? 寝てるの〜?」  返事はない。  おかしいなあ・・・・・・と思った矢先、上の階から気配がした。と、次の瞬間!  「え? え? え???」  突然、階段の上からゴロンゴロンと『何か』が転がり落ちてきたのだ。  「まじかよ・・・・・・」  転がり落ちてきたのは麻緒衣だった・・・・・・。  これって1日1膳転び!?  「あ、麻緒衣!? だ、大丈夫?」  さすがというべきか、麻緒衣は怪我らしい怪我もなく、ぼんやりと寝ぼけ眼を僕に向けていた。  「・・・・・・どうして・・・・・・佐菜ちゃん・・・・・・いるの・・・・・・?」  「それは、こっちのセリフだろ!? なんでまだ寝てるんだよ!?」  「うん。寝てた・・・・・・わたし、早起きしようと思ってたくさん目覚ましかけたの」  麻緒衣はとろんとした目をこすりながら小さくあくびをする。  「結果として、早起きできてないけどね」  僕は近所迷惑だから、目覚ましをひとつひとつ止めて回った。  「佐菜ちゃん、ありがとう。 おやすみなさい・・・・・・」  「待って待って!寝ちゃダメだよ、麻緒衣!」  「うん・・・・・・たくさん目覚ましかけたよ・・・・・・」  やばい!  麻緒衣はこのまま二度寝(?)しちゃいそうだ・・・・・・。  「麻緒衣、起きろって!」  僕は何とか麻緒衣を叩き起こし、急いで学校へ向かった。  すでに始業式には間に合わないだろうけど、HRだけでもきちんと出してあげたかった。  ・・・・・・この調子じゃ、これから毎日麻緒衣を起こすのが日課になりそうだ。  学校に滑り込んだ時には、非情にもHR開始のベルが鳴り響いていた。  自分のせいで遅刻をしてしまったことに、麻緒衣は落ち込んだ表情を見せた。  「佐菜ちゃん、ごめんね。 わたしのせいで・・・・・・」  「気にしないでよ、麻緒衣」  「でも・・・・・・」  「僕は職員室に行かなきゃならないから、先に教室行きなよ」  「うん。それじゃあまた後でね」  麻緒衣はひらひらと手を振ると、駆け足で踊り場を走り抜けていった。  また転ばなきゃいいんだけど・・・・・・。  僕は麻緒衣の後ろ姿を見送ると、職員室へと後を向けた。  
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