専属家庭教師

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専属家庭教師

 「ふわぁ〜」  目が覚めると、太陽はもう高く登っていた。  時計を見ると、もうお昼過ぎ。  今日は随分寝坊してしまった。  「なんだか、起きる気がしないなぁ」  そのままベッドの中でまどろんでいるとーー。  コンコンッ  誰だろう・・・・・・?  「はーい」  ドアを開け放つと、そこに麻緒衣が立っていた。  「キャッ!」  「え? どうしたの、麻緒衣?」  麻緒衣は顔を真っ赤にして背を向けてしまった。  「さ、佐菜ちゃん・・・・・・は・・・・・・はだか」  「え?」  麻緒衣に言われて見下ろすと、僕はパジャマのズボンしか履いていない状態だった。  たぶん、寝てる間に暑くなってシャツを脱いでしまったんだろう。  「今起きたばっかりだったんだよ」  「いいからいいから、早く上着きてよぉ!」  「そんなオーパーリアクションしなくても・・・・・・僕の裸なんて見慣れてるでしょ? 小さい頃はよく一緒にお風呂に入ってたし」  「小さい頃は小さい頃なの! 早く上着着てくれなきゃ、わたし、佐菜ちゃんのこと見られないよぉ」  「わかった。 ちょっと待ってて」  まるで茹でダコみたいに耳まで真っ赤にした麻緒衣を待たせ、僕は上着を着るために部屋の奥へ行った。  「麻緒衣のヤツ、オーバーなんだから。顔真っ赤にしちゃって。よっぽど恥ずかしいかったんだな」  僕は着替えながら小さく笑う。  麻緒衣の純粋無垢なりアクションが可愛らしくて。  ドアを開けると、ギュッと目を閉じたままで麻緒衣が待っている。  子供みたいな麻緒衣の姿が微笑ましくて、僕はしばらく黙って見つめていた。  「佐菜ちゃん?」  「・・・・・・」  麻緒衣の目の前に僕がいることも気づいていないみたい。  僕は込み上げる笑いをこらえるのが大変だった。  「佐菜ちゃん?」  「・・・・・・」  「・・・・・・もう着替え終わったのかなぁ?」  独り言のようにつぶやく麻緒衣。  だんだん表情が心細く曇っていく。  「くすくす・・・・・・」  「佐菜ちゃん?」  パッと麻緒衣の目が開く。  「あ〜! 佐菜ちゃん、ひどい。 わたしで遊んでたでしょ?」  「ごめん。 だって、麻緒衣、子供みたいなんだもん」  「ずっと目つぶってたから恐かったんだからね」  「ごめんごめん。もう上着は着たよ。だから、中に入ってよ」  「もう騙しっこはナシだよ」  「種も仕掛けもございません」  「今日はね、佐菜ちゃんにお願いがあるんだ」  「お願い? なんか、嫌な予感がするんだけど・・・・・・」  「そんな大げさなことじゃないんだよ。わたしのお願いはね・・・・・・」  僕を上目遣いで見つめると、麻緒衣は背中に隠していた教科書をさっと取り出した。  「なぁに?」  「宿題でわからないところがあって・・・・・・佐菜ちゃん、教えてくれない?」  「えー? 僕が?」  「だってだって、佐菜ちゃんお勉強できるし」  けど、3年生の宿題だよ、僕に解けるとは思えないよ」  「わたしよりは解けると思う」  麻緒衣の意識にもーー一理あるかも・・・・・・。  麻緒衣は昔から勉強が苦手だった。僕はよく宿題を手伝わされたっけ・・・・・・。  「もう高校生なんだし、宿題くらい自分の力でやるべきだよ」  「でも・・・・・・ひとりじゃ自身ないよぉ・・・・・・」  「麻緒衣だってやればきっとできるよ。僕も応援してるから頑張って」  「・・・・・・わかった、頑張ってみるね・・・・・・」  僕に断られてよっぽど悲しかったのか、麻緒衣は肩をがっくり落として帰っていった。  再びひとりになった部屋で僕は今日はどうしようか考えた。    
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