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早起き宣言
「これで、明日の準備はバッチリだな」
僕は目覚ましをセットすると、ベッドにもぐり込んだ。
寝るには少し早いけど、油断は大敵。
今日は早めに眠りにつこう。
「おやすみなさい」
誰にともなくつぶやいて、電気を消した。
目が冴えてなかなか寝付けないな。
ゴロゴロと寝返りを打ちながら、僕はふと思い返す。桜乃杜に帰ってきて、今日で1周間と6日。生活には慣れてきたけれど、町にとけ込めてない。何て言うか、まだよそ者な感じだ・・・・・・。それはたぶん、僕自身が5年前の記憶を引きずっているからだろう。
僕は5年後の町を歩きながら、5年前の風景をそこに求めている。
変わらないものなんてないのに・・・・・・。
電話だ。
誰からだろう?
「もしもし?」
「もしもし、佐菜ちゃん?」
「うん」
「あ・・・・・・」
「・・・・・・麻緒衣?」
「も、もしかして寝てた・・・・・・?」
「え? うん」
「ご、ごめんね! それじゃ、おやすみなさいっ!」
「ちょ、ちょっと、麻緒衣、切らなくて大丈夫だよ。寝ようとはしてたけど、全然寝付けなくて」
「本当に?」
「本当に」
「よかったぁ〜」
「で、どうかしたの?」
「えっとね、明日こそは寝坊しないって、佐菜ちゃんに宣言しておこうと思って」
「そんな強気なこと言っちゃって大丈夫なの?」
「今度はホントのホントだよ、だから、明日はわたしが佐菜ちゃん起こしてあげるからね」
「ま、期待はしないでおく」
「佐菜ちゃん、ちょっとは信用してよぉ〜」
「ウソウソ、期待して待ってます。用件はそれだけ?」
「えっとね・・・・・・実は今のは電話する口実なの。本当は佐菜ちゃんの声が聞きたかっただけなんだ」
「隣に住んでるんだから、直接来ればいいのに」
「そうなんだけど・・・・・・たまには電話も新鮮かなって思って」
「それはそうかも」
「ふわぁ〜」
受話器越しに麻緒衣のあくびが聞こえる。
無防備で無邪気な麻緒衣の仕草を思い出し、思わず笑いが込み上げる。
「ククッ・・・・・・」
「佐菜ちゃん?」
「なんでもないよ。 麻緒衣もうおねむだろ? そろそろ寝たほうがいいよ」
「あ〜! 佐菜ちゃん、わたしのことお子様扱いしてるでしょ?」
「してないって。明日は寝坊しないって宣言したんだし、今日はお互い早めに寝よう」
「そうだね、また、明日会おうね、佐菜ちゃん」
「うん」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
電話を切ると、僕は再び布団にくるまった。
さっきまでなかなか寝付けなかったのに、嘘みたいに睡魔が襲ってきた。
麻緒衣の声を聞いて、僕もホッとしたからかもしれない。
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