SOS

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SOS

 学食での昼食を済ませ、僕はひとり廊下を歩いていた。  「佐菜ちゃ〜ん」  名前を呼ばれて振り返ると、泣きそうな顔で麻緒衣が走ってきた。  「麻緒衣、どうしたの?」  「あのね・・・・・・わたしね・・・・・・」  息が切れて上手く喋れないらしい。  「麻緒衣、落ち着いて」  麻緒衣は深くうなずくと、目をキョロキョロさせながら息を整える。  「オーケー・・・・・・あのね」  「うん」  「体操着おうちに忘れてきちゃったの。次の時間体育なのに・・・・・・」  シュンとした表情でうつむく麻緒衣。  「佐菜ちゃん、どうしよう・・・・・・」  わざわざ校内中を走り回って、僕に助けを求めに来たんだろう。  「僕がクラスの女子に借りてきてあげるよ」  「本当に?」  「だから、ちょっと待ってて」  「うん!」  笑顔になった麻緒衣を教室の前で待たせると、クラスの女子の姿を探した。  何とか借してくれる女子を探して麻緒衣に体操着を手渡した。  「はい、体操着」  体操着を受け取ると、麻緒衣は顔をクシャクシャッとさせて微笑んだ。  「ありがとう、佐菜ちゃん! やつぱり佐菜ちゃんは、いつもわたしのことを助けてくれるんだね」  「あまんり忘れ物をしないようにね」  「本当にありがとう、佐菜ちゃん!」  かしこまって深々とお辞儀をすると、麻緒衣は駆け足で自分の教室へと戻っていった。  麻緒衣の後ろ姿を見送りながら、僕は思い出す。  小学生だった僕と麻緒衣は毎日一緒に登校していた。  いつも通学路を途中まで行ったところで、麻緒衣がふと立ち止まる。  きっとまた忘れ物をしたんだろう。  「佐菜ちゃん、ごめんねぇ。わたし、忘れ物ないか何度も確認したんだけど・・・・・・」  「大丈夫だよ、今日は早めに家を出たんだし、走ればまだ間に合うよ」  「でも、佐菜ちゃん、走ってばかりで疲れちゃうよ」  「僕の心配してる場合じゃないだろ。それに、僕がついてなきゃ、麻緒衣迷子になっちゃうじゃん」  「・・・・・・」  僕は泣き出しそうな麻緒衣の手を取って、来た道を引き返す。  これが毎日のように繰り返される登校風景。   たまに麻緒衣が忘れ物のない日があると、僕は拍子抜けするくらいだった。  そう言えば、昔から麻緒衣はよく忘れ物をしてたっけ。  のんびりしててぼぉーっとしてるとこ、ホント麻緒衣は全然変わってないよなぁ。  僕は懐かしい思い出を思い返し、微笑ましい気持ちになった。
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