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ガラス越しのふたり
朝、僕は部屋で寝ていた。
コンッ
「何の音だろう?」
音の正体が気になり、僕は窓を開け放つ。
「今開けちゃダメー!」
え?
コッ
「いてっ!」
「だ、大丈夫? 佐菜ちゃん?」
窓の外にいたのは麻緒衣だった。
僕は気がつくまで、窓ガラスに小石をぶつけていたらしい。
「うん・・・・・・何とか・・・・・・」
麻緒衣は少しパニック状態であたふたしている。
「本当に大丈夫? 血出てない?」
額に当てた指先を見てみる。
幸い血は出ていない。けど、おでこの真ん中辺りが少しだけ腫れている。
「怪我はしていないみたい」
「よかった〜・・・・・・ごめんね・・・・・・けど、佐菜ちゃん、急に開けるから・・・・・・」
「だって、まさか石が顔面にヒットするとは思わないだろ? ・・・・・・何してんだよ?」
「今日はね、早起き出来たんだ。だから、佐菜ちゃんを起こしてあげようと思って」
「う〜ん、おかげで完全に目は覚めたけどさ、やっぱり普通に起こして欲しいな。朝っぱらから痛いのはキツいよ〜」
「本当にごめんなさい。けど、映画とかでよく見るでしょ?」
「映画?」
「小石を窓ガラスに当てて呼び出すじゃない?わけあって会えない恋人同士が人目をしのんで密会するシーンだよ」
「僕達、全然わけありじゃないじゃん」
それに、恋人同士ってわけじゃないしさ・・・・・・。
「そうだけど・・・・・・小さい頃から凄く憧れてたシーンだから、いつかやってみたいなって・・・・・・」
僕の冷静な指摘にシュンとしてしまう麻緒衣。
「僕は別にいつでも会えるんだから、普通に玄関から訪ねてきてよ」
「だけど、寝起きの佐菜ちゃんは・・・・・・」
「寝起きの僕・・・・・・?」
「・・・・・・」
それ以上は黙り込み、麻緒衣は顔を赤らめてうつむいてしまった。
麻緒衣のヤツ、もしかして・・・・・・前に僕の上半身裸を目撃してしまったことを気にしてるのか? だから、また目撃することを恐がって、こんな回りくどい形で僕を起こしたのか? 僕の裸が・・・・・・トラウマになってる!? 恥ずかしそうにモジモジする麻緒衣を見て、僕は思わず笑ってしまった。
「あともう少し支度に時間かかるんだけど、うちに上がってく?」
麻緒衣は物凄勢いで首を横にぶんぶん振る。 よっぽど気にしてるんだな〜。
「ほら、よく見てごらん。今日はちゃんと服着てるでしょ?」
「佐菜ちゃん!」
「ごめんごめん、麻緒衣がいいリアクションするからつい・・・・・・」
「いじわるするなら、おいてくからね!」
「あと少しで行けるら、ちょっと待ってて」
僕は笑いをかみ殺しながら、支度を急いだ。
「お待たせ」
「うん、行こう」
麻緒衣は早起き出来たのがよっぽど嬉しかったのか、スキップで駆けだした。
朝陽の中でキラキラ光る麻緒衣の後ろ姿を見つめながら、僕の中で奇妙な違和感が沸き上がる。
何だろう・・・・・・この胸騒ぎ・・・・・・?
あまりにも順調な朝で、僕にはピンと来ない。
いつもなら、間違いなく大慌てでダッシュしてるのに・・・・・・。
僕が疑い深いのか・・・・・・?
どこかで落とし穴が待ってる気がして仕方ないんだ。
「麻緒衣、ストップ!」
僕のかけ声にビタリと動きを止める麻緒衣。まるで『だるまさんが転んだ』だ。
「なぁに?」
不思議そうな表情で麻緒衣が振り返る。
「忘れ物とか・・・・・・してない?」
麻緒衣はゆっくり首を横に振る。
「本当にホント?」
麻緒衣はゆっくり首を縦に振る。
「体操着持った?」
「持った」
「ハンカチは?」
「持った」
「ティッシュ」
「持った」
「教科書」
「持った」
「時間割表違ってない?」
「間違ってない」
「だいたい、今日学校休みってことはない?」
「ない」
「給食袋は?」
「小学生じゃないんだから」
「お弁当は?」
「持った。佐菜ちゃん、お母さんみたい・・・・・・」
キョトンとする麻緒衣を前に、僕は腕組みをする。 そして、考えられる懸念事項がないか入念にチェックした。
「佐菜ちゃん・・・・・・ぐずぐずしてたら今日も遅刻しちゃうよ」
それだ!
腕時計を見ると、ギリギリの時間が迫ってきていた。
「やばい! どうして〜!? 今日はせっかく早起き出来たと思ってたのに〜!」
結局、僕と麻緒衣はいつものように学校まで全力疾走で急いだ。
僕の心配は皮肉な形で的中したわけだ。
トホホ。
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