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『あ、何か曇ってきたなぁ。雨……降るかな』
窓際、カウンター席のガラス越しに空を見上げると、雨粒をいっぱい含んで重たげに膨らんだ黒い雨雲が見える。
カウンターのテーブルを拭いていた手を止めて、空模様に暫し気を取られていると、奥のキッチンからいつもの穏やかな落ち着いた声がした。
「若菜ちゃん、今月のお薦め本のコーナー準備しといてね」
「はーい、もう客席のお掃除終わりますから、その後すぐします」
私の名前は七本若菜、二十歳の大学生です。
そして、ここはカフェ『Books』。
駅から少し離れた場所にある図書喫茶…って言うか、そんな所です。
お店の中は、まあ普通のカフェだけど、一階の一部と二階は本棚がいっぱいあり、お客さんは好きな本を選んで読めるようになっている。
そう漫画喫茶みたいだけど、ここには漫画は置いてなくて、あるのは主に小説や詩、エッセイなど活字の書籍だけ。
本好きが楽しめる時間と空間を提供したいって思いで、お店のオーナー兼マスターの新木蔵太さんが作ったこだわりの店だ。
私は大学に入った年にここでバイトを始めてもうすぐ二年になる。
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