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10 grain candy
「結花の奴はいないのか?」
あたしはそれに頷くと、その場を立ち去ろうとした。
ふらつきながらゆっくりと。
サイコキャンディのことを知られるのはマズいと思ったからだ。
だけど、数馬さんは明らかに消耗しているあたしを気にかけてくれて、家まで送ってやると言ってくれた。
でも、あたしはそんな気遣いを断った。
もしかしてだけど、この人がサイコキャンディを狙っていないとも限らないからだ。
「信用ねえな、まあ無理もないか。じゃあ気を付けて帰れよ」
そう言うと、数馬さんはスタスタと行ってしまった。
ふぅ、と一呼吸して安心したあたしは、結花がどこに行ったのかを考える。
……けれど、頭は睡眠不足と疲労でまともに動いてはくれなかった。
あたしは、トートバッグに入れていた四角いプレーン缶の小箱を見た。
……これをまた舐めれば、結花の居場所を探す作戦が思いつくかもしれない。
だって、ちょっと本を読んだくらいでネット晒された動画を消せるようになったんだもん。
結花を探すことくらい簡単に……。
でも……ダメ、ダメだよ。
これはきっと危ない薬で、使い続けると副作用とかで廃人なっちゃったり、中毒症状が出るかもしれない。
だけど、一体この後どうすればいいの……。
一度は立ち上がったけど、再び輸入雑貨店の前でうなだれてるあたし。
「おい女。お前、黒崎結花の知り合いか?」
あたしはぼんやりとその声がした方向を見ると、そこにはスーツ姿の男たちが――。
人数を数えるのもままならないので、正確には分からないけど、集団といっていいほどの男たちがそこにいた。
あたしはブルブルと震えが止まらなくなる。
丸坊主にされ、プラカードを持たされて、車に引きずり込まれたときの記憶がよみがえってくる。
あたしがしどろもどろになっていると、先頭にいた無表情の男が何か話し始めた。
「こいつもヤク中か、まあいい。おい、この女を鳥居社長のとこへ連れて行くぞ」
無表情の男の指示を受けて、周りにいた男たちがあたしを囲み始めた。
卑猥な笑みを浮かべてジリジリと近寄って来るスーツ姿の男たち。
あたしはさらに身を強張らせ、持っていたトートバッグを抱きしめる。
その態度に何か違和感を感じたのか、無表情の男があたしのトートバッグを奪って中身を確認するように言った。
この男、能面のような顔のくせに勘が良い。
これはまずいことになった。
結花に返さなきゃいけないのに、こんないかにも怖そうな連中の手に渡ったらどうなってしまうか分からない。
このままじゃサイコキャンディが奪われちゃう。
あたしが我が子を抱くようにトートバッグを持って、身を縮めていると――。
「おいおい、女一人に何やってんだよ」
精悍な顔のくせ毛――数馬さんがそこにいた。
……さっき帰ったんじゃ……。
数馬さんはあたしを守るように前に立って、無表情の男に声をかける。
「福富、お前こんなことする奴だったっけ? 俺はお前のことは買ってたんだけどな。それともこれは仁の指示かよ」
「数馬さん、どいてください」
「嫌だって言ったらどうするんだよ?」
数馬さんと福富と呼ばれた男が睨み合う。
あたしは傍で震えていることしかできなかった。
あたしを囲っていたスーツ姿の男たちも冷や汗をかぎながら、その様子を見守っている。
しばらくして福富が、数馬さんに背を向けて、スーツ姿の男たちに「出直すぞ」と言った。
「数馬さん、とりあえず今日のところはあなたの顔を立てておきます。だが鳥居社長には報告させてもらいますよ」
「変わったよな、福富。そんなゾロゾロ人引き連れてよ。あとお前さ、ネクタイするならしっかり締めてスーツくらいビシッと着ろよ。そのせいか知らねえけどお前、目が死んでんぞ」
その後、福富たちは何も言わずにその場を去っていった。
あたしは安心してせいか、その場でへたり込んでしまう。
「おいおい、大丈夫か?」
……数馬さんの優しい声が聞こえる……けど……。
サイコキャンディを結花に……渡さなきゃ……。
そこからあたしは気を失ってしまった。
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