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20 grain candy
――ポケットの中に入れていた瓶――ジャックダニエルの蓋を外して一口飲んだ。
喉が焼けるように熱くなっていく。
そして一緒に買ってきた煙草に火をつける。
ゆっくりと吸い込み、肺に煙を入れる。
ゲホゲホ咳き込むかと思ったけど、そんなことはなかった。
きっとタールやニコチンが軽いやつを買ったのかな。
結花が吸っているやつをちゃんと見ておくんだった。
いつもなら嫌気がさす街の照明が、やたらと綺麗に見える。
夜だというのにオレンジとグリーン、そしてパープルで彩られた世界。
目の前には転がっているクラスメイトたちがいる。
スクールカースト最高位のリア充男女。
どうやら意識が回復したみたいで、不安げに辺りを見渡している。
両手は後ろで、連中が制服の下に着ていたパーカーや、Nの文字が入っているスニーカーの紐で手首を縛りあげて拘束してある。
「何処だここ?」「なにがあったの?」と喚き散らしている。
ついさっき後ろから襲い掛かって、今いる路地裏へと攫ってやった。
クラスメイトたちはあたしの顔を見て、誰か気づいたようで、急に強気な態度で口悪く怒鳴り始めている。
当然だろう。
こいつらから見てあたしは、新宿駅周辺で寝ているホームレス……いや野良犬や野良猫――いやいやサンドバックのようにけして反撃してこない奴なのだから。
ちょっと脅せば言うことを聞くと思っているんだ。
だけど残念、今のあたしは別人だ。
ロックスターDJの魔法がかけられているんだ。
グリム童話のシンデレラってこんな感じだったのかな、なんてふと思った。
今のあたしはガラスの靴ならぬ、ジャックダニエルのガラスの瓶を持っている。
あまりにうるさいので、口に含んだジャックダニエルを吐きかけた。
どうも逆効果だったみたいで、連中はさらに怒鳴り始める。
「こんなことしてただで済むと思ってんのか!?」「あとで覚えてろ」と男も女も声を荒げている。
罵詈雑言というやつだ。
やっぱりこういう状況って映画や漫画みたいなお決まりの台詞を言うんだなって思って、つい笑ってしまった。
いや、こいつらにはただ語彙力ないだけか。
連中は必死であたしを怖がらせようと言葉を重ねているけど、こちらから見ると、鎖に繋がれている動物がひたすら吠えてるようにしか見えない。
誰も牙と爪のない肉食動物には怯えないし、檻に入った獣を怖がったりはしない。
いい加減に耳障りになってきたので、空になったジャックダニエルの瓶で、連中の一人を殴りつけた。
ガラスの瓶が割れて、男の頭がそれで切れたのか、血が流れ始める。
そしたら面白いように静かになり、今度はあたしに謝罪をし始めた。
「許してくれ」
「なんでもするから殺さないで」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
やれやれ、やっぱりこいつらには語彙力が足りないようだ。
あたしが次に割れたガラスの瓶で女の頭を叩くと、面白いことが起きた。
連中が互いにあたしをいじめていた罪を、なすり付け合い始めたんだ。
「こいつがやろうって言い始めたんだ」とか、「私は何度も止めたとか」、ここでも語彙力のなさをアピールしている。
あたしはそれを見て大爆笑。
呵呵とばかり高笑ってしまう。
こいつらはあたしが知る限り、中学生時代から仲が良かったグループだったはずなのだけれど。
まあ、自分より弱い奴をイジメて楽しんでいるような人間なんてこんなもんだろう。
そう思うとなんか拍子抜けした。
こいつらはもう元関係には戻れない。
ここまで浅ましく、互いを非難し合ったのだから関係の修復は難しいだろう。
だけど、どうせほとぼりが冷めたらまたつるみ始めるんだろうな。
いつメンとかいう同じメンバーじゃなくても、似たような人間関係を作り続けていくんだ。
そしてまた自分より弱い奴を集団で、徒党を組んで、クラスの圧力――いや未来でいえば会社での同調圧力で、同じようにイジメを始める。
そう思うと、これ以上あたしのような被害者が出ないうち、こいつらはここで殺したほうがいいんじゃないかと思った。
あたしは連中の紐をライターで焼き切ってやった。
全員が熱がっていた。
苦痛で泣き始めている女もいた。
こんなことで泣くなよ、お前たちがあたしにしたことはもっと酷かっただろう。
人は自分がやられる側になると、こうも脆いもんなんだな。
そんなことを思っていると、自由になった男たちが、あたしのことを囲み始めていた。
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